転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「じいちゃんがよく脱走するのは知ってると思うけど、それは今に始まった話ではなくて。じいちゃんがまだ社長をしている時から度々脱走しては社員を困らせてたんだけど」

「…なんとなく、想像は出来ます」

「それで昔、その日もじいちゃんが会社を抜け出してひとりで家の近くを散歩してたら、盛大にコケて足を捻ったらしくて。その時、たまたまそばを通りかかった紗良のお父さんが、じいちゃんを助けてくれたんだって」

「え…」

「しかも、おんぶして家まで連れて帰ってくれたらしい。最初は家の人に電話するって言ってくれたみたいなんだけど、じいちゃん脱走してるもんだから、連絡するのは嫌だったみたいで」


ゆっくりと説明する彼は「ほんと、いい大人が何やってんだって感じだよな」と付け加えると、呆れたように眉を下げて笑った。


その話、何度か父から聞いたことがある。怪我をした人を家までおんぶで送ったことがあるって。

でもまさか、その相手が会長だなんて知らなかった。今まで父の口から“シゲさん”どころか“九条”の名前が出たこともなかったし。


「そこからふたりは仲良くなったわけだけど、その事件の数日後に、紗良のお父さんはもう一度じいちゃん家に行ってて…」

「もう一度、ですか?」

「うん。じいちゃんが紗良のお父さんにお礼がしたいからって、家に招いたらしい。そして、俺達が公園で出会ったのはその時だよ」

「え…?」

「紗良のお父さんがじいちゃん家に行ってる間、紗良はひとりであの公園で遊んで待っていたらしい。その時に、俺がたまたま紗良を見つけたんだ」


──そういえば逸生さんが言っていた。私達が出会ったのは、会長の自宅の近くの公園だと。


そっか。私達は本当に、あの場所で出会ってたんだ。

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