転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

“てか君は嫌じゃないわけ?好きな男が他の女と結婚するところ、目の前で見てなきゃいけないのに”
“まぁ君はいいよな。嫌なら会社(ここ)を辞めればいいんだし”


あれは私に向けた言葉だと思っていたけれど、もしかすると副社長本人の気持ちだったのかな。どこにも吐き出せないモヤモヤを、似た環境にいる私にぶつけていたのかも。

好きな人が弟と結婚する。それをずっとそばで見ていなければならない。家族であるからには、祝福しなければいけない。

きっとそれは、私なんかより何倍も苦しい環境になるはずだった。それでも会社のためにとふたりを見守ろうとしていた副社長は、冷徹そうに見えて、逸生さんの言う通り情に厚い人なのかもしれない。


「松陰寺さんも、相手が兄貴に変わったからって嫌な顔はしなかったよ。むしろ喜んでいるようにも見えたし、実は思いあっていたのかもな」


私と逸生さんのお見合いも、副社長と松陰寺さんの婚約も。みんなにとっていい結果になった。

これも全て、人と人との繋がりのお陰。


「なぁ紗良」


グラスをテーブルに置いた逸生さんが、優しい眼差しで私を見据える。その熱を孕んだ瞳に、ドキッと心臓が跳ねた。


「紗良と一緒にいた1年が、生きてきた中で一番楽しかった」


急に重い告白をしてきた彼は、優しく目を細め「紗良がそばにいてくれたら、なんでも乗り越えられる自信がある」と紡ぐ。


「紗良がいない未来が、もう想像出来ない。俺の隣には紗良が必要なんだって、離れて改めて気付いた」


色々な謎が解けたからか、彼の台詞が真っ直ぐに胸を打つ。ひとつひとつの言葉が、離れていた時間を埋めていく。


「…私、本当に逸生さんと一緒にいてもいいんですよね…?」


答えは分かっているはずなのに、夢のような展開にしつこく問いかけてしまう。苦しい時間があったからこそ嬉しさが増して、でも信じられなくて。視界が滲み、声が震える。


「うん。一緒にいよう、紗良」


逸生さんが頷いた瞬間、急に実感が湧いてきて、それと同時にぶわっと感情が込み上げてきて──頬に、一筋の涙が伝った。


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