転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
逸生さんの部屋に向かう途中、父に“今日は帰らない”旨を伝えるため電話をした。ついでになぜお見合い相手が逸生さんであることを先に教えてくれなかったのか強めに尋ねれば「それはこっちの台詞だよ」と一蹴されてしまった。
どうやら父はかなり根に持っているらしい。私が九条グループに勤務していたことを黙っていたから。
『お父さんは寂しいよ』その声は笑っているようで微かに怒りを孕んでいた。続けて『こんなにも紗良を思っているのに』と重い彼氏みたいな発言をする父に、素直に「ごめんなさい」と謝罪しておいた。
ちなみに父の言い分は“逸生さんの気持ちは聞いていたけれど私の気持ちは知らなかったから”らしい。
相手が逸生さんと知った私が会う前に断ったりしたら、逸生さんが可哀想だから。お見合いが始まる前から、父は逸生さんを認めていたということだ。
でも父が内緒にしていたせいで危うくドタキャンしかけたことを伝えると、父は『お母さんどういうこと?!』と隣にいる母に詰め寄っていた。けれど受話口の向こうから聞こえてきた『だってスカートがキツかったんだもん』の声に、思わずふっと口元が緩んだ。
『後日、きちんと彼を紹介するんだぞ!』その言葉に頷いてから電話を切ると、隣でその様子を見ていた逸生さんが「紗良の家族はほんとあたたかいな」と目を細めた。
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「相変わらず綺麗ですね…」
またこの部屋に戻ってくる日がくるなんて思わなかった。約1ヶ月ぶりの彼の部屋は、変わらず夜景が綺麗だった。
さっきのレストランから見える景色も勿論綺麗だったけど、このマンションの最上階から眺める夜景は別格だ。色んな思い出も重なって、一段と輝いて見える。ここから見る景色が、私は1番好きだ。
「紗良」
窓ガラスに手をついて、キラキラと輝く夜景を捉えていれば、突如後ろから覆い被さるように抱きしめられ、ムスクの香りに包まれた。