転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「それにしてもオネーサン、綺麗な顔してんな」
ずい、と顔を近付けられて、咄嗟に一歩後ずさった。あからさまに避ける私を余所に、目の前の男は「どっかで見た事ある顔してる」と呟く。
それを聞いて、ピンときた。
「名前は忘れたけど、よく国宝級美女モデルの子に似てるって言われます」
「自分で言う?」
見た事ある顔と言われたから、てっきり有名人と重ねているのかと思ったけれど。
私の言葉に、何故かふっと吹き出すように笑った男は「まぁいいや」と零すと、ポケットからいきなり煙草の箱を取り出した。
「まさかこんなところで吸わないですよね」
「電柱で隠れてるから大丈夫だろ」
「いやダメでしょ、ちゃんと喫煙所でお願いします。では私はこれで」
「待って待って。オネーサン面白いからもう少し話してたいんだけど」
新手のナンパなのか、ただの自由人なのか。煙草の箱を握ったままゆるりと口角を上げた男は、立ち上がろうとした私に「いいから座って」と呼び止めた。
「私はそろそろ帰りたいんですけど」
「そうやって帰るフリして、またわざと電柱に頭ぶつけたりしない?」
「……」
頬杖をついたまま小首を傾げた男の問いかけに、思わず言葉を詰まらせてしまった。
さすがにこのたんこぶを抱えたまま、もう一度電柱に頭をぶつける勇気はないけれど。
私、帰りたいんじゃなくて本当は転生したいんだ。