Contact〜再会した初恋の君に〜
あの時、俺はとにかく急いでいたんだ。そこに声をかけてきてくれたのが田中だった。
「先生。私で良ければ行きますよ。これを数学教材室の机の上でいいんですか?」
「ああ、頼むよ。悪いな田中。これ鍵な」
「いいえ、大丈夫です。じゃあまた鍵を戻しにきますね」
「そういうことで瀧本、引き止めて悪かったな。気をつけて帰れよ」
「あ…はい」
彼女はたまたま職員室から出てきたタイミングで俺と先生の会話を聞いて、代理を買って出てくれた。
あの時、俺は代わりに行ってくれた彼女にお礼も言えなかったんだ。
それなのに凛とした姿で「じゃあ」と先生と俺に笑顔を見せていった。
今まで俺に対して女子が何かをするその行動の裏には、たいてい俺の気を引くためにしてきた感じがあった。それなのに、田中からはそんな様子がまったく感じられなかった。
そう…初めてだったんだ。
そんな彼女の優しさを体験してしまったから、クラスが同じになる前から気になる存在となったのだ。
だから、2年のクラス名簿に彼女の名前を見つけて心が少し跳ねた。やっとまともに彼女と話すことができると考えただけで胸が躍った。