あさまだき日向葵
制服から着替えると、猫用のキャリーを持って、知り合いのサロンへと向かう。

「おー、撰。夏休みいいよなー」
とか、適当に話しながらカラーリングしていく。

「色抜かなくてもこんな色()入るのは、猫っ毛だねー。お前んち、じいさんが一番毛太いのウケる」
「じいちゃん、暑いって短髪にしてたな」
「だぜ、タワシみたいな毛。手に刺さるっての」
「ふっは。このさあ、染めてる最中とか、パーマ当ててる最中とかが一番無様だよな」
「なあに、努力は人に見せないもんだ」

なんて言う、オーナーは家族ぐるみでお世話になってる。最近帽子を駆使してるのは頭頂部が怪しいんじゃないかと、睨んでる。

ドライヤーの音が止むと
「夏休み、何すんの?」
聞かれても、予定はそんなにない。

「……家にいる。暑いし」
「不健康だねー、あ、女の子呼ぶの?」
「それ、いいね」
と、笑ってみせると、本気に取られたようで

「腹立つ~、俺らの時は、男はみんな丸坊主で、だな」
「じいちゃん、長髪だったけど?」
「……そうか」

オーナーに礼を言って、外へ出ると、室内で冷やされてた体から一気に汗が吹き出る。

「あっちぃ」
ぬるい風に吹かれて、ツンとしたカラー剤の匂いが鼻に届く。

夏の空みたいな濃い青じゃなくて、透明度の高い海っぽくなったらいいな。

オーナーがだんだん色が抜けてくるからって言ってた。夏の間、楽しめたらそれでいい。


< 50 / 186 >

この作品をシェア

pagetop