恋の仕方、忘れました
暫く沈黙が続いた。

主任を怒らせてしまったかもしれない。
自分のバカさ加減に呆れてしまう。

そうしている間にも、車はずっと走り続ける。
どこに向かっているのかは謎だけど、このままだその返の駅にでも降ろされてしまうかもしれないと思った。


けれど、先に口を開いたのは主任の方。



「───なぁ、どうすんの」



静かな車内に、主任の低い声が響いた。

その声にはもう棘を感じず、突き放されているのかと思ったのに、こうして私に委ねてくるのは結局彼の優しさだ。


こうやってこれからも私を成長させてくれるんだと思う。
彼はいつだって私を正しい方に導いてくれるから。



「……いや、です。なかったことにしないで下さい」



絞り出したような声で言えば、主任は嬉しそうに口角を上げた。



「次しょーもないこと言ったら車から引きずり降ろす」


「…めちゃくちゃ物騒じゃないですか」


「お前が悪いんだよ」



主任はそう言うと、くしゃりと私の頭を撫でた。



「もう面倒くせーから、素直に喜んどけ」



そう言って、私の頭から離れた手は、またまた私の手を握った。

肘掛けの上にくっついて並ぶ二人の腕を見て、喜べないわけがない。

また、私より筋肉質な腕に長くて綺麗な指が私の指に絡んでるのを見て、これは本当に現実なのかと疑ってしまうのも無理はない。



「まだ信じられないです。夢みたい」


「じゃあどうしたら現実になんの」


「…………前回以上に優しく抱いてくれたら?」


「欲張りか」





そうしている内に、車は見知らぬ土地で停車した。

聞かなくても、ここがどこなのかは何となく察しがついた。

部屋の鍵をポケットから取り出した彼は、ニヤリと笑う。



「今日は逃げんなよ」












─────彼の部屋。どうやらこれから、夢を現実にさせてくれるみたい。

< 104 / 188 >

この作品をシェア

pagetop