恋の仕方、忘れました
「やっぱりここにいた」
建物の外。壁にもたれ、夜風にあたりながらぼんやりと目の前を行き交う人達を眺めていれば、ふいに落ち着いた声が落ちてくる。
「主任……」
壁に凭れたままその人物に声をかけると、私のすぐそばまでやって来た彼は同じように壁に寄りかかり正面を見据えた。
「……ありがとうございました」
彼の目を見つめながらそう零すと、前を見ていた彼の視線が私の方へと移動する。
そのまま視線がかち合うと、その目元はすっと細まった。
「聞こえてた?」
「丸聞こえです」
「アホみたいに酔ってるからこっちの会話なんか聞こえてないと思ってた」
「……そんなには酔ってないですよ」
いや、結構酔ってるけど。ここまで歩いてくる間もだいぶフラついたけど。
でも記憶をなくすほどのレベルではない。
会話を盗み聞きするなんて余裕だ。
少し火照った頬を触りながら目の前のイケメンを軽く睨むと、組んでいた腕を解いた彼は片方の手を私の頭にぽんっと乗せた。
「あれでアイツらが黙るかは分からないけど」
「十分です。庇ってくれた事が嬉しかった」
「頑張ってるやつのこと悪く言われるのは、普通に許せないから」
「……」
「お前はもっと評価されていい人間だろ」
「……主任は私に甘いですね」
耐えきれず涙が零れると、主任は焦るどころか、ふっと声を出して笑う。
「ホントはあのくそババア捻り潰したいくらいだけど、お前が尊敬してるから」
「してないですよ。どうするんですか誤解を招いたじゃないですか」
「明日から可愛がられたりして」
「それはそれで面倒ですね」
私も釣られて笑うと、泣くか笑うかどっちかにしたら?と、頭に置かれていた手が私の頭をふわりと撫でる。
誰かに見られてたらどうしようと思いながらも、その手を払うことなんて出来なくて。
主任が私を甘やかすから、またぽろぽろと涙が溢れ出した。