恋の仕方、忘れました
私を見下ろす彼は、微かに口角を上げる。けれど、その目は全く笑っていなかった。
「あ、れ?主任……え?」
つられて私も笑みを浮かべてみせるけど、全然和やかな空気にならない。それどころか、私を捉える双眸は明らかに鋭く冷たい。
「何で怒ってるか分かるか?」
「……」
「クソハゲの隣に座る。酒はガバガバ飲む」
「……」
「挙句の果てに、森岡にへらへらする」
「……」
「なにお前、俺を怒らせたいの?」
「……そんな、つもりは」
睨みつけながらぐっと距離を詰めてくる主任。
今なら簡単にキス出来る距離に彼の顔があるというのに、残念ながらそういう雰囲気ではなさそうだ。
思わず一歩後ずさろうとするも、すぐ後ろは壁。
それに気付いたと同時に、彼が壁に手を置いた。うん、完全に逃げ道を塞がれてしまった。
これは所謂、壁ドンってやつ。恋愛経験皆無の私が、ドキドキするシチュエーション。
それなのに、違う意味でドキドキしている私は、きゅんとする余裕なんてなかった。