恋の仕方、忘れました

主任が私の乱れた髪を掬う。それを指に巻き付けて「シャワー浴びる?」と尋ねてくる。

「まだ動けません」と首を横に振ると、満足げに微笑んだ主任は私の横に寝転んできた。


黙って腕を差し出してくるから、遠慮なくそこに頭を預けると、そのまま抱きしめられる。


車に乗ってる時もそうだけど、主任は手を繋ごうだとか、誘うような言葉は言わない。

それでも私が簡単に喜んでしまうようなことを、サラッとしてくれる。


付き合わなければ絶対に知ることが出来なかった甘い一面。こんなの、独り占めしたいと思うに決まってる。



「主任」

「うん?」

「……やっぱ何でもないです」



毎日こうして一緒に寝られたらいいのに。

そう言おうとして辞めた。結婚を急かしているように聞こえたら悪いと思ったから。



「なに」

「いや、幸せだなーって思ったのを伝えようとしたんですけどね、ちょっと恥ずかしくなっちゃって」

「……ふうん」



付き合い始めたばかりのとき、結婚を意識しとけと言った彼は、今も同じ気持ちでいてくれているのだろうか。

私の方は、その気持ちが膨らむばかりで困る。


毎日忙しくしている主任を、近くで支えられたらいいのにと考えてしまう。

まぁ、今は支えるよりも疲れさせてしまう事の方が多いのだけど。
< 186 / 188 >

この作品をシェア

pagetop