恋の仕方、忘れました
噂でラブホテルのバスルームはガラス張りになっていてベッドから丸見えだって聞いたことあったけど、この部屋は大丈夫みたい。
せっかくシャワーを浴びながら一旦落ち着こうと思ったのに、主任に丸見えだったら落ち着くどころか恥ずか死ぬ。
それでも、あまり長居をしたら不自然なので、さっさと済ませてバスルームを出た。
まだ濡れたままの髪をタオルで拭きながら主任の姿を探すと、ソファで電話をしている彼の姿を見付けた。
彼女からの電話だといけないから、主任にバレないようにこっそりとベッドの縁に腰掛ける。
「…あー、それ課長が持ってるから、明日また伝えとく」「……つかれ」
盗み聞きをするつもりはなかったけど、静かな部屋に主任の低い声だけが響くから、私の耳に自然と入ってくる。
その内容を聞く限り電話の相手は会社の人間で、少しほっとした。
電話を切った主任が私を視界に捕える。
眉毛だけは描いてみたけど、ほぼすっぴんをまじまじと見られて思わず手で顔を隠した。
「しゅ、主任、こういう時ってもしかして顔だけは作っておくべきだったんですかね。旅行かよってね。別人過ぎて萎えます?すみません何せこういう場所は初めてなもんで」
「……俺もシャワー浴びてくるわ」
「無視かい!」
結構真面目に聞いてるのに目の前の男はスルーして歩き出す。
その後ろ姿を思いっきり睨んでいると、突然主任が振り返るものだから慌ててまた顔を隠した。
「逃げるなら今しかないからな」
それだけ言うと、彼は再び歩き出す。
「に、逃げません!」と大声で返したけれど、彼は何も言わずにバスルームへ入ってしまった。