恋の仕方、忘れました
主任は私の腕を掴んでいた手をゆっくりと解放した。
急に熱をなくした私の腕は、行き場をなくしてぶらりと落ちる。
昨日はあんなに肌を重ねたのに、今はもう、彼の身体の一部にほんの少しの間触れるだけしか許されないなんて。
…昨日の自分に嫉妬した。
「寧ろ、なに」
こんなところで何を言わそうとしているのか。
少し屈んで私の口元に耳を近付けて、さっきの続きを聞き出そうとしてくる主任はなんだか楽しそう。
柔軟剤の匂いなのか、主任からふわりといい香りが鼻を掠めて、酔いしれそうになるのを我慢した。
「秘密です」
主任の行動ひとつひとつが狡く感じて何だか悔しい。
だから曖昧な返事で誤魔化して主任から距離をとると、彼は気に食わないのか少しムスッとした顔を見せた。
“主任のお陰でクズのことは忘れられそうです”
たった一言それだけ伝えれば済む話なのかもしれない。
けれどそれを口にすると、主任とのあれやこれやが最高でしたって言ってるようなものだから、さすがに恥ずかしくて口が裂けても言えなかった。
協力してもらっておきながらこんな返事は失礼なんだろうけど、こっちだってこの気持ちを悟られまいと必死だった。