恋の仕方、忘れました
もうこうなったら一度オッケーして後で断るしかない。感じ悪いけど、今はそれ以外の方法が見付からなかった。
でも最近自分が押しに弱いということに気付いたから、もしかすると断れないかも。と若干弱気になる。
もしそうなったら…簡単に食事だけ済まそう。
と、半ば諦めモードだったのだけれど。
「課長、その件は…」
今日でお願いします。と、言い切る前に、突然目の前にいるはずの課長の姿が見えなくなって、会話が途切れた。
消えた課長の代わりに視界にあるのは、男の人の、大きな背中。
突然、ずいっと私と課長の間に割って入ってきた人物は、課長の机に大量の資料をどっさりと置くと
「課長、これのチェック今日中にお願いしますね。明日の会議で必要になりますので」
少し棘のある言い方で、そう言った。
課長の手元に視線を移すと、慌てて付箋をくしゃくしゃに丸めていた。
一体何が起こったのか分からず呆気にとられていると、目の前の男、一条主任が今度は私の方へと振り返る。
その目は少しイラついているようにも見えた。
「成海、今日の夕方だったよな?S商事に俺がついて行くの」
「え?」
「今日だったよな?」
一瞬、そんな予定があっただろうかと悩んだけれど、主任の目が「話を合わせろ」と強く訴えかけているのが分かって、思わず頷いた。
すると主任はそれを見て納得したのか「ほら、さっさと見積書作ってきて」と、自分の席に戻るよう促した。