恋の仕方、忘れました
主任と出掛けるのはこれが初めてなわけではない。
これまでに取引先に同行することは何度もあったし、二人きりでなくても他の社員と一緒だったり、何人かで出張に行ったりと、数えきれない程こういう場面はあったのに。
果たして、今までこんなに緊張したことがあっただろうか。
「主任、どこへ向かうんですか」
「んー、どーするかな。たまにはサボってもいいけど」
助手席に座った私は、運転席でエンジンをかける主任に話しかけると、彼らしくないことを口にした。
そんな私達が乗り込んだのはなんと主任の車。
私は車に全く詳しくないけれど、この車が高級車だということはすぐにわかった。
外車のセダン。スーツ姿の主任に似合ってる。
こんなに座り心地のいい車のシートなんて初めてで、それだけでもテンションが上がった。
車までかっこいいなんて、さすが主任だ。
まぁこの人なら軽トラに乗って麦わら帽子被っててもカッコよく見えそうだけど。
「サボ…ってことは、…あ、う、海とか?夕日見ながら追いかけっこしてみます?」
「お前そんなんだからその歳まで処女なんだって」
「だからもう処女じゃないんですってば!」
場を和ませたくて冗談を言う私に透かさず鋭いツッコミをする彼は、どうやらデートをする気はないらしい。
私のことあんな抱き方しておいて、処女呼ばわりするなんて狡い。あの日をなかったことにはしないでほしいのに。
慣れた手つきでハンドルを操作する主任にきゅんとするけど、心は痛かった。
あの日のことを忘れられないのは自分だけなんだと思うと苦しかった。