恋の仕方、忘れました
出来ることならこのままずっと電話で話していたいところだけど、そろそろ出ないとイノケンさんに怪しまれる。
部屋も小さいし、もしかするとここで電話していることもバレてるかもだし。
つい最近まで処女だったけど、一度済ませてしまったのだから二度も三度も変わらない。
私にとって大事なのは、主任とした、たった一回。れだけ記憶に残ればいい。
「恐らく明日は仕事休みますのでよろしくお願いします」
『おい成海』
「おやすみなさい」
『待てこら…っ』
次に主任に会った時にブチ切れられるのは分かっているけど、一方的に電話を切った。
このままここにいたって何も解決しないので、取り敢えずシャワーだけ浴びて部屋に戻った。
「遅かったね。のぼせてない?それとも怖気付いた?」
ベッドに寝転がっていたイノケンさんは、恥ずかしげもなく堂々とテレビでいやらしい映像を見ていた。しかも結構な大音量で。
だからなのか、私が電話していたことには気付いてない様子だった。
「大丈夫だよ。めちゃくちゃ優しくしてあげるから」
そう言ってテレビの電源を切ったイノケンさんは、もう事をおっぱじめようとしているのか、自分の横の布団をポンポンと叩いて私を誘う。
それに引き寄せられるようにイノケンさんに近付いて、ベッドに上がるとイノケンさんの目の前で正座した。
いっその事この人を主任だと思えばいいのではないか。
そう思ったけれど、何度目を凝らしてもイノケンさんの容姿は主任に似ても似つかなかった。
主任は彼のように髪を染めていないし、ピアスだってしていない。身長はもっと高いし、手だって綺麗。
こんなに香水臭くないし、煙草も吸わないし、服装もだらしなくない。
比べるのは失礼だけど、あまりにもかけ離れていて。
覚悟を決めますと言ったくせに、やっぱり無理だった。
「え、ちょ、えっ?!どした?なんで泣く?」
「ごめ、ごめんなさいぃぃ」
気付けば涙がボロボロと零れて、袖で拭いても拭いても止まらなかった。