紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
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場内アナウンスでイベントが告知された。
「ご来場の皆様にお知らせいたします。まもなく午後二時より、フォトスポットのイングリッシュガーデンにおいてイベントを開催いたしますのでお集まりください」
事前には何も知らされていなかったお客さんたちが、何事かと集まってくる。
事務所棟でウエディングドレスに着替えた私は、南田さんに付き添われてイングリッシュガーデンへと向かう。
遊歩道を歩いている人々から歓声が上がり、カメラを向けられる。
「わあ、きれい!」
「えっ、ちょっと、あの人もしかしてさっきの社長さん?」
「作業服じゃないんだ」
お客さんたちがみんなイングリッシュガーデンについてきて、その脇のテラスにも人だかりで壁ができた。
映画のセットのような窓枠から顔を出すと、拍手が沸き起こり、シャッター音も鳴り止まない。
「はぁい、みなさん。こちらご存じうちの社長でぇす」
南田さんの司会でイベントが始まった。
「めっちゃきれいでしょ。結婚記念に写真を撮りたいときはね、こんなふうにチョーかわいい写真撮れますからね。おすすめですよ。衣装も選べますからね」
と、集まった人たちの一角が脇によけて、海が割れるように道ができた。
「それじゃあ、もう一人。今日の主役のご紹介でぇす」
南田さんが大きく手を振って招き入れる。
「うちの社長の素敵なイケメン旦那様でぇす!」
お客さんたちの拍手で迎え入れられたのは、タキシード姿の玲哉さんだった。
女性客から悲鳴が上がる。
こんなの聞いてねえよという仏頂面が、かえって魅力を増しているみたいで、カメラのシャッター音は私の倍以上に激しかった。
――ま、いいですけど。
純白のドレスに身を包んだ私の姿を見て、耳を赤く染めている。
照れている様子がまたお客さんに好意的に受け止められていた。
はじめは関心を持っていなかった園内の他のお客さんたちも、騒ぎを聞きつけてどんどん集まってきていた。
玲哉さんが歩いてきた道もあっという間にふさがっていた。
「さて、ご来場のお客様、今日は、うちの社長の本物の結婚式でぇす。みなさん、盛大な拍手をお願いしまぁす」
おめでとうの声援とともにうれしい拍手が沸き起こる。
「社長はぁ、この薔薇園を再建するためにぃ一生懸命知恵を絞って頑張っててぇ、結婚式も後回しにしてたんですよぉ。で、いつも感謝している旦那様のためにぃ、リニューアルオープンの日にサプライズで結婚式やっちゃいましょうってことで、あたしたちスタッフが勝手に企画しちゃいましたぁ」
再び拍手が沸き起こり、南田さんの隣に立つ今井さんが軍手のまま頭をかいていた。