紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
 体を隠そうとする私の腕が、細身の体からは想像がつかないほどがっしりとした男の腕で広げられ、麻酔で動けなくなった蝶を標本にするかのようにシーツの波に貼りつけられる。
 私はきつく目を閉じた。
 子供の頃親に叱られたときのように恐怖が通り過ぎるのを願っているんじゃない。
 私は自分からこの男に身を委ねたのだ。
 何もかもすべてを失うために。
 だから……。
 だから、泣いたらだめだ。
 体はどんなに辱められようと、心までこんな男に屈したらだめなんだ。
 獲物が羽をむしられるように下着が剥ぎ取られ、最低の男が花園を踏み荒らして顔を埋めてきた。
 まさか、そんな……。
 男の好奇心のおもむくままにもてあそばれた私の体が火照り出す。
 私の知らない行為が繰り広げられていく。
 いつのまにか私は声を上げていた。
 その声が男の欲望を呼び起こし、さらに辱めがエスカレートしていく。
 私は逆らえない。
 ほしがってなどいないのに求めてしまう。
 彼のなすがままに身を委ね、思うままに操られていく。
 男の指先が奏でる繊細な旋律に合わせて私の唇が震え、恥ずかしい吐息がこぼれ出る。
 隠そうとすればするほど快楽の扉が卑劣な舌でこじ開けられていく。
 悪魔に手を引かれて森の奥へと連れ去られた迷子のように、もはや自分がどんな姿勢なのかすら分からない。
 ――もう、帰れない……。
 いつの間にか私は自分の体からあふれ出た沼に溺れていた。
 不意に、紫の香りが意識を呼び戻す。
 ラベンダーの穂を軽く撫でていったあどけない男の顔が思い浮かぶ。
 紫の香りになぶられるように、私はその指先を求めていた。
 つぼみだらけだった薔薇が、一輪また一輪と花開いていく。
 しっかりと指を絡めて握り合った手がシーツの海に沈んだときだった。
 私の目から涙がこぼれ落ちた。
 ――泣いちゃだめ。
 泣いちゃだめなのに。
 刺し貫かれた痛みよりも、こんな男に涙を見せてしまったことが一番の屈辱だった。
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