紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「ていうか、真宮って誰っすか?」
「ここの経営者だろう。そもそもここは真宮薔薇園という名前じゃないか」
「ああ、そうなんだぁ。へぇ」
あかねさんは初めて知ったらしく、腰に手を当ててあらためてあたりを見回していた。
「君は本当にここの職員なのか?」
「あたしぃ、これでもここで働いて六年? なんですけどぉ。まあ、名前とか気にしなくてもここに来てればお給料もらえるんで困らないじゃないですかぁ」
玲哉さんが拳を握りしめて震えている。
私が袖を引くと、蛇のようにギロリと睨まれた。
おさえて、おさえて。
それにしても、前に来たときにこんな感じの人いたかな。
持ち場とか担当が違ってたのかもしれないし、会ってないのかも。
「ああ、そういえば」と、急にあかねさんが手をたたく。「前におじいちゃんみたいな人がいたけど、もしかしてあの人が真宮さん?」
「私の祖父です」と、玲哉さんの後ろから顔を出して私が答えた。
「ああ、そういうことね」と、納得したようにコクコクと頷く。「すげえいい人でぇ、あの人がいた頃はまだなんとかなってたんですけど、最近は荒れ放題でねぇ。おじいちゃんがっかりするだろうな」
玲哉さんが顔を前に突き出す。
「だから、我々が経営を引き継ぎに来たんだ」
「へえ、そうなんすか」と、うなずいてからあかねさんが私を向いた。「おじいちゃん元気?」
「三年前に亡くなりました」
「マジっすか?」と、髪に手を入れて頭を振る。「なんだ、そうだったんだ。チョー残念。いいおじいちゃんでぇ、うちの子熱出たときに預けらんなくて連れてきたら、面倒見てくれてたんですよ。マジ、リスペクト」
へえ、おじいちゃん、そんなことしてたんだ。
そういえば、私も生まれたばかりの頃に真宮ホテルの庭園でおじいちゃんに抱っこしてもらってる写真があったっけ。
「そんでぇ、熱が下がって退屈してたうちの子をおぶい紐でおんぶして花まで見せてくれちゃってて」
あかねさんがスマホを取り出した。
「写真見ますぅ?」
玲哉さんは渋い表情で興味なさそうな態度を取っているけど、私はおじいちゃんの写真を見てみたかった。
「これ、ママ友グループでこの前バーベキューした時の写真。ほら、うちの子、今年から小学生でぇ、めっちゃ食うんすよ。マジ受けるっしょ」
え、写真って、そういうのなの?
小麦色の肌で髪の毛が茶色い女の子がペロッと舌を出してダブルピースではにかんでいる。
お母さんにそっくりですね。
「ええとぉ、おじいちゃんのはずいぶん前だよねぇ、何年前だっけ?」
「五、六年前じゃないのか」
「なんで知ってるんすかぁ。もしかして……、なんだっけ、あの、ほら……、ワトソンくん?」
――おしい。
玲哉さんまで、「そっちかよ」と苦笑いを浮かべている。
「ここの経営者だろう。そもそもここは真宮薔薇園という名前じゃないか」
「ああ、そうなんだぁ。へぇ」
あかねさんは初めて知ったらしく、腰に手を当ててあらためてあたりを見回していた。
「君は本当にここの職員なのか?」
「あたしぃ、これでもここで働いて六年? なんですけどぉ。まあ、名前とか気にしなくてもここに来てればお給料もらえるんで困らないじゃないですかぁ」
玲哉さんが拳を握りしめて震えている。
私が袖を引くと、蛇のようにギロリと睨まれた。
おさえて、おさえて。
それにしても、前に来たときにこんな感じの人いたかな。
持ち場とか担当が違ってたのかもしれないし、会ってないのかも。
「ああ、そういえば」と、急にあかねさんが手をたたく。「前におじいちゃんみたいな人がいたけど、もしかしてあの人が真宮さん?」
「私の祖父です」と、玲哉さんの後ろから顔を出して私が答えた。
「ああ、そういうことね」と、納得したようにコクコクと頷く。「すげえいい人でぇ、あの人がいた頃はまだなんとかなってたんですけど、最近は荒れ放題でねぇ。おじいちゃんがっかりするだろうな」
玲哉さんが顔を前に突き出す。
「だから、我々が経営を引き継ぎに来たんだ」
「へえ、そうなんすか」と、うなずいてからあかねさんが私を向いた。「おじいちゃん元気?」
「三年前に亡くなりました」
「マジっすか?」と、髪に手を入れて頭を振る。「なんだ、そうだったんだ。チョー残念。いいおじいちゃんでぇ、うちの子熱出たときに預けらんなくて連れてきたら、面倒見てくれてたんですよ。マジ、リスペクト」
へえ、おじいちゃん、そんなことしてたんだ。
そういえば、私も生まれたばかりの頃に真宮ホテルの庭園でおじいちゃんに抱っこしてもらってる写真があったっけ。
「そんでぇ、熱が下がって退屈してたうちの子をおぶい紐でおんぶして花まで見せてくれちゃってて」
あかねさんがスマホを取り出した。
「写真見ますぅ?」
玲哉さんは渋い表情で興味なさそうな態度を取っているけど、私はおじいちゃんの写真を見てみたかった。
「これ、ママ友グループでこの前バーベキューした時の写真。ほら、うちの子、今年から小学生でぇ、めっちゃ食うんすよ。マジ受けるっしょ」
え、写真って、そういうのなの?
小麦色の肌で髪の毛が茶色い女の子がペロッと舌を出してダブルピースではにかんでいる。
お母さんにそっくりですね。
「ええとぉ、おじいちゃんのはずいぶん前だよねぇ、何年前だっけ?」
「五、六年前じゃないのか」
「なんで知ってるんすかぁ。もしかして……、なんだっけ、あの、ほら……、ワトソンくん?」
――おしい。
玲哉さんまで、「そっちかよ」と苦笑いを浮かべている。