紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「で……、あ、あった、これこれ」
 あかねさんのスマホの中で、赤ちゃんを背負った作業着姿のおじいちゃんが笑っていた。
 社長の座を、入り婿だった私の父に譲ってホテル経営から退いた頃だ。
 この後すぐに入院しちゃったのよね。
 この頃はまだ背景の薔薇はそれなりに咲いていたようだ。
 あんまりじっと見ていたせいか、あかねさんが私の顔をのぞき込んできた。
「その写真、あげましょっか。スマホあります?」
「あ、いえ、私、持ってないんです」
「ガラケーっすか?」
「いえ、ケータイ自体持ってないんです」
「へえ」と、宇宙人でも見るような目で見られてしまう。
 じゃあ、とあかねさんが玲哉さんにスマホを突き出した。
「お兄さんに写真送りますから、ついでに連絡先交換しましょうよ。お兄さん、チョーかっこいいから」
 ――はあ!?
 玲哉さんは渋い表情をしつつも、スマホを取り出している。
 え、なんで?
「あ、あの……」
 私は二人の間に割って入った。
「自己紹介がまだでした。妻の紗弥花です。旧姓真宮の久利生紗弥花です」
「そっすか。あたし、南田茜です」
 ちゃんと夫婦だとアピールしたのに、連絡先の交換が終わってしまって、玲哉さんが自分のスマホに送られてきたおじいちゃんの写真を私に見せる。
 え、ちょっと待って。
 これって普通なの?
 なんだろう。
 なんかすごくモヤモヤする。
 私がスマホを持ったことがないから知らないだけかもしれないけど、初対面の異性と連絡先を交換するのって、当たり前のことなの?
 なんかスッキリしないのは、やっぱり私が気にしすぎでおかしいの?
 そんな私の気持ちなど無視するように、玲哉さんが茜さんにいろいろと質問している。
「君はこの辺の人なのか?」
「そうっすよ。いやほら、子供いるんで、やっぱ近くがいいし、ここお客さんいないから保育園から連絡来たときとか、今井さんに頼んでてぇ、あ、今井さんって、花の手入れしてるおじちゃんなんだけどぉ、優しいから代わり頼むと引き受けてくれてぇ、早めに帰れていいんすよ」
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