紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
 それでもやっぱりすごいと思うのは、何事も即断即決の私の旦那様だ。
「迷ってもしょうがないだろ。やるべきことがはっきりしているんだから、迷う必要がない。簡単なことだ」
 それが大変な人もいるんですよ。
 ついていくだけでも必死なんですから。
 だけど、優柔不断な私の背中を押してもらえるんだから、ありがたいことなんだと思う。
 狭い檻から出してくれた旦那様が作ってくれた夕食を食べ、おそろいのパジャマで眠る。
 毎晩のようにベッドでかわいがってくれるあなた。
 生理の時には気づかって触れないようにしてくれる。
 ありがとう。
 私は幸せですよ。
 夜中にスマホでネットニュースを見て世の中の動きを知る。
 株式市場や為替相場、原油市場、全然関係のなかった世界も関心事になっていく。
「スマホって便利ですね」
「今時年寄りでもそんなこと知ってるけどな」
「おばあちゃんになるまで愛してくれますか?」
「当たり前だ。死んでも来世でまた探してやるさ。俺はしつこいぞ」
 ――ねえ、玲哉さん。
 本当に探しに来てくださいよ。
 あなたが来てくれなかったら、化けて出ますからね。
 あなたの知らない私の秘密。
 本当は私の方がしつこいのかもしれませんよ。
 ベッドサイドで玲哉さんのスマホが震える。
「ん?」と、手を伸ばして取り上げる。「アメリカからだ」
 横目で見ると、ビデオ通話の小さな画面に頭の丸い男性が映っている。
“Hi, Rich.”
 画面の中の相手はパジャマ姿の玲哉さんが珍しいようだった。
"Hey, Reiya! What's goin'on?"
"Just married."
"Wow! You Kidding."
"Not joke. This is my wife."
 画面の中に引き出されてしまったので、思いついた英語であいさつをした。
「ナイストゥミーチュー。アイムサヤカ」
"What! Same pajamas!"
 その後は画面をはみ出るジェスチャーと早口で聞き取れなかった。
「ずいぶん手の込んだジョークだなって。CGかAIにしては良くできてるだってさ」
「違います。本当です。リアリー。シリアス。ヒーイズマイハズバンド。マイダーリンです」
「本気にするなよ。向こうもジョークだから」
 玲哉さんはベッドから抜け出すと仕事部屋へ行って会話を続けていた。
 一人残された私は、自分のスマホを握りしめたまま枕に顔を埋めた。
 明日も仕事だ。
 先に寝ますね。
 ――おやすみなさい、玲哉さん。
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