先生の愛が激重すぎる件
 マスターと他愛のない話をして店を出た。近所の公園まで足を延ばすと小さな子供たちが遊んでいた。

あと数か月でおなかの子供も生まれてくる。数年もすれば私もあんな風に公園で一緒に駆けまわったりするのだろう。しばらくの間、遊具のある場所から少し離れたベンチに座りぼんやりとその様子を眺めていた。

やがて夕焼け小焼けのメロディーがながれて一人二人と公園を出ていく。

「パパ~!」

 元気な声に顔をむけるとスーツを着た男性に4・5歳くらいの女の子が駆け寄っていく。少し後ろから追うのはあの子の母親だろう。

男性はかがんでその子を軽々と抱き上げると肩に乗せた。肩車をしてもらった女の子は嬉しそうにはしゃいでいる。

ああ。なんて幸せそうな家族だろう。

絵にかいたような一家。私が理想としていたもの。でもこの子はあんな風に広い背中に乗ることはできない。また、後悔の渦に飲み込まれそうになる。その時かすかに胎動を感じたような気がした。私はお腹に手を当ててみる。

「悲しんでばかりでごめんね。でも、安心して。ママはあなたのことたくさん幸せにするからね……」

 手にできなかったものに執着して嘆くのはもうやめよう。実家の母も弟たちも支えてくれる。私はひとりじゃない。父親がいない不自由はあるかもしれないけれど、それは不幸ではないから。

一番星が光る夕暮れの空の下を私はゆっくりと歩いて家路についた。

翌朝。私はボストンバッグひとつ抱えて部屋の階段を下りた。

部屋の荷物はマスターにお願いして実家に送ってもらうことになっている。

カフェにはすでに明かりがついていた。
「おはようございます」

 ドアを開けて中に入るとマスターが笑顔で迎えてくれる。

「おはよう。いい天気でよかったね」

「はい。マスター。短い間でしたがいろいろとお世話になりました」

 私は深々と頭を下げた。

「元気でね」

「はい。マスターもお元気で」

 マスターに見送られ、私は呼んでいたタクシーに乗り空港へ向かうバス乗り場で降りる。そこから空港連絡バスにのると空港まで1時間ほどだ。

おそらく早めに到着するはずなので空港でお土産を選ぶつもりでいる。弟たちは東京土産を楽しみに待っているだろうから。

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