先生の愛が激重すぎる件
妊娠してからというもの時々感情のコントロールがうまくいかなくなっていた。だからとにかく平和で穏やかな生活をするように心がけていた。自分にとって害になるものは極力避けていたのに……あんな形で鷹藤さんの裏切りを知ることになるなんて。

「ここに呼んでいいですか、荒木先生のこと……」

 私は首を左右に振った。

「おせっかいかもしれないですが言わせてください。ほんとにいいんですかこのまま別れてしまっても? 詳しい事情は知らないですけど、妨害?みたいなのがあったみたいだしそれを踏まえてふたりできちんと話した方がいいんじゃないでしょうか」

「……もう、いいんです」

 鷹藤さんがいっていたとおり私達は勝手に壊れたのだと思う。私が先生のことを理解して受け入れて信じて待っていさえすれば別れることもなかった。

「先生と別れたのは全部私のせいなんですから……」

「そう。じゃあ僕はこれ以上は何も言わない……タクシー呼びますね。送りますよ」
 相原先生はそれ以上何も言ったりはしなかった。私を部屋まで送り届けると「お元気で」といって帰っていった。

その夜。私は夢を見た。生れた赤ちゃんと荒木先生と三人で暮らす夢だった。それがあまりにも幸せ過ぎて夢から覚めたくないと思ってしまった。

翌日は昼過ぎに起きて明日美や里奈、相原先生にお詫びとお礼のメッセージを送った。部屋の片づけと荷造りをしてからカフェで昼食を食べる。

「明日出発だね」

 カウンターの向こう側でグラスを拭きながらマスターは言った。

「はい。マスターにはとてもお世話になりました。お部屋も突然解約することになってごめんなさい」

「いいんだよ。実はもう、借り手が見つかったんだ」

「そうなんですか! よかったです」

 聞けば私の前に入居していた美術学生の後輩らしい。家賃もお手頃で立地もいい。なによりオーナーのマスターがとてもいい人で学生の一人暮らしにはもってこいの物件だ。できれば私もここには長く住んでいたかった。

「明日は何時の便なの?」

 マスターに聞かれて話していなかったことを思い出した。

「10時45分の便です。空港連絡バスで行こうと思っているので8時には出ます。鍵は……」

「いつも8時前には店にいるから大丈夫。鍵はその時に受け取るよ」

「わかりました。その時にお返しします」

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