先生の愛が激重すぎる件
少しあきれ顔で明日美は言った。大変なことを成し遂げた後のはずなのに、俺にまで気を遣ってくれるなんて母は強しといのは本当のようだ。
「これから仕事に戻るんでしょ?」
「ああ、そうだな。もうそろそろ行かないと。でも仕事は約終わらせてまた来るから」
本当はこのままずっとここにいたいけれど、そんなこと言ったら明日美に怒られそうだ。
「わかった。待ってるね、お父さん」
“お父さん“と呼ばれて妙に背筋が伸びた。
「おう! 明日美は少し休んで。なにかあれば俺のこと呼ぶように!」
「わかった」
明日美の額にキスをして俺は廊下に出た。
待合室にいるお義母さんに無事に産まれたことを伝える。朝から付き添ってくれて感謝しかない。
「俺、仕事に戻るので明日美と子供の事、よろしくおねがいします」
「任せておいて。正臣さん、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとうございます、お義母さん」
外科病棟へ戻る途中、親父にもメールを送る。生れたばかりの娘の写真を添えて。
ナースステーションへ入ると拍手で迎えられて面食らった。
「荒木先生、おめでとうございます!」
声をそろえてそう言われると嬉しいやら恥ずかしいやら、反応に困る。
「みなさん、ありがとうございます」
まだこの病院に来て間もない俺の、しかも家族のことをこんな風に祝ってくれるなんて本当に温かいスタッフたちだと思う。
「部長、すみません。途中抜けさせてもらっちゃって」
回診から戻ってきた外科部長へ頭を下げると、「今日はもう帰っていいよ」と肩を叩かれる。
「いやでも……」
またやらなければならない仕事がある。
「医者の代わりはたくさんいるけど、子供の父親は君だけだろ?」
「はい。ですが……」
「後なにが終われば帰れるの」
そう言われて業務の内容を話すと「それは僕がやっておくよ」と部長は言ってくれた。
今までの俺なら上司に仕事を任せるなんてしなかったと思う。でも、仕事よりも大切なことが増えすぎて……。
「感謝します、部長」
俺はもう一度頭を下げると明日美の病室へと向かった。部屋に入ると明日美は眠っていた。
ベッドサイドの椅子に座り、その寝顔を見つめる。
眉がへの字に下がって唇が少し乾いている。相当疲れたのだろう。命掛けで子供を産んだんんだから当然か。
そっと手を握ると明日美は目を開けた。
「ごめん、起こした」
「……正臣。仕事は?」
起き上がろうとする明日美を制して、ベッドのヘッド部分を起こした。
「早退させてもらった。ありえないくらい理解のある職場だろ?」
「いい病院だね」
「本当に、いい病院だよ。で、明日美は体、どう?」
「……大丈夫じゃない。でも、不思議と気分はいいよ。ねえ、赤ちゃんみてきた?新生児室にいるの」
「まだ。まず、明日美に会いたかったから」
俺はベッドの端に座りなおす。そっと明日美を抱きしめると「愛している」と耳元でささやいた。