先生の愛が激重すぎる件
「なんでだよ。来なきゃ来ないで嫌なくせに。ていうか、俺が二人に会えないのは耐えられなさそうだからできるだけ会いに来るよ。電話もする。だから明日美も寂しい時はちゃんと寂しいっていうんだぞ」

 そうじゃないと、言葉にしないと、またすれ違ってしまいそうで怖い。物理的な距離があるからこそ俺はうざいくらい明日美に愛を伝えたいと思う。


***

「荒木先生、内線です」

 病棟の看護師さんがそう言って俺に電話の子機をくれた。

「もしもし、荒木です。はい、はい! すぐに伺います!」

 俺は電話を切るや否やナースステーションを飛び出してエレベーターに飛び乗った。向かうは産科病棟。

「でもあれ? 何階だっけ……」

 長年勤務していた病院を辞め、明日美の家の近くの総合病院に再就職した俺。まだ二週間しかたっていないので院内の配置がよく分からない。

慌ててエレベーターの中の案内板を確かめて産科病棟へと急いだ。

今朝破水した明日美は産科病棟へ入院した。立ち合い分娩を希望していた俺は勤務中に抜け出してもいいと許可をもらっていた。

「あ、先生。こっちです」

 俺の姿を見つけた産科の看護師さんは明日美のいる分煙室へと案内してくれる。研修医の時に何度か見学しているでも、夫として、父親としてあの場に立ってみると情けないくらいに慌てふためく自分がいた。

「明日美、頑張れ」

 どうしたらいいのか分からず彼女の手を握った。苦しそうな明日美の顔。的確に指示を出す助産師と看護師たち。あの場にいながら何もできない自分に腹が立った。

「赤ちゃん出てきますよ!」

  やがて生まれてきた赤ん坊は明日美の胸の上に置かれる。ずっと会いたいと思っていたおなかの中にいた我が子。髪が黒々としていて、目が大きくて鼻筋も通った美人さんだ。かわいい。この世の中に何よりも愛おしいと思えるものがまた一人増えた。

「おめでとうございます! 先生、無事産まれましたよ?」

 そう声をかけられてようやく声が出た。

「……あ。明日美、よく頑張ったな。ありがとう、産んでくれて、ありがとう。ありがとう……」

 ぐしゃぐしゃに泣いて、泣きすぎて、涙をぬぐった先に産まれたばかりの我が子を見つけてまた泣いてしまった。

「ちょっと、大丈夫?」

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