先生の愛が激重すぎる件
 そういわれればそうだ。家の中でも先生と呼ぶのは違和感があった。仕事の延長のようで休まらない気もする。

「はい。……あ、うん」

「それで? 名前。知ってるよな」

 早く呼べとばかりに催促する。

「……荒木、先生」

「おい。明日美~」

 先生は大げさにうなだれて見せた。もちろん知っている。ただ、照れくさくて呼べないだけ。

「ごめんね。正臣さん。……いや、まさくん? おみくん、まあくん?」

 バリエーションを変えて呼んでみると、先生はゲラゲラと笑い出した。

「ちょ、どうして笑うんですか! 私なりにいろいろ考えてみたのに。酷い!!」

 恥ずかしくてついムキになる。

「悪い悪い。明日美のそういう真面目なとこ、好きだわ。……そうだな、まあくんもいいけど、正臣って呼んで欲しい」

「呼び捨てには……」

「できない?」

 少し残念そうな先生を見て、私は申し訳ない気持ちになる。

いくら付き合いっているとはいえ、ひとまわりも年上で職場では医師と看護師という関係性。呼び捨てで呼べるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。

「努力します。それまでは正臣くんって呼ぼうかな。それでいい?」

「もちろん、いいに決まってる」

 言いながら先生はテーブルにコーヒーカップを置き、私のカップも取り上げた。

「明日美」

 名前を呼ばれて先生の方を見ると、ゆっくりと顔が近づいてくる。キスされるのだと分かって、とっさに目を瞑った。

押し当てられた唇からはコーヒーが香る。そっと差し込まれた舌の熱を感じるとどうしようもなく申し訳ない気持ちになる。

 先生と暮らすようになってから、ハグとかキスとかのスキンシップは当たり前のようにある。けれどその先はまだ、受け入れられない。

付き合う前に体の関係は持ってしまったけれど、あれは事故だ。二回目以降はちゃんと好きという気持ちにならないとしたくないと思ってしまった。

『明日美が俺としたいと思えるまで待つよ』

 そう言ってくれた先生に対して信頼は寄せている。感謝もしている。でもまだ、自分から求めたいと思えるほどの気持ちの高ぶりはない。

このままではいけない気もするけれど、『それでも好き』と言ってくれる荒木先生の愛情に私は甘えていた。

***
 
「小春、これからどこかに飲みに行かない?」

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