先生の愛が激重すぎる件
 ある日の日勤の業務終了後、スタッフルームから出ていこうとする同期の及川小春を呼び止めた。

「今日は無理。これから用事あるんだ」

 申し訳なさそうに手を合わせる小春に「えー」といって口をとがらせてみる。

今日は荒木先生が当直で家にいない。

久しぶりに小春と飲みに行きたいと思っていただけにがっかりの度合いがいつもより大きい。

「もう、小春ってば、『今日は』じゃなくて『今日も』でしょ! 最近全然付き合ってくれないじゃない」

 今まではお互い誘い合って飲みに行ったり、カラオケしたりしてくれていた小春が私の誘いを毎回断るようになっていた。

――仕事中は今まで通り仲が良くしているし関係性が壊れたわけでもないはずだけど……。

「本当にごめん。今度絶対に埋め合わせするからね。おつかれさま」

「おつかれ~」

 小春は少し前に彼氏とは別れたと言っていたけれど、もしかしたら新しい彼氏でもできたのかもしれない。私に“彼氏”ができたのと同じように。本当はこのことを小春にだけは早めに伝えたかったのに。

「じゃあ、私も帰ります。お先に失礼します」

 休憩室でお茶を飲みながら話し込んでいる同僚に声をかけ、バッグをもって立ち上がる。

スタッフルームを出ると病棟の廊下で荒木先生と出くわした。

「よお、帰るのか?」

 長引いていた手術がようやく終わったようだ。その顔には疲れが滲んでいる。

「先生は当直ですよね。頑張ってください」

 先生は週に一度は当直勤務がある。私も週に一度は夜勤があるのですれ違うことが多い。

「……寂しいなぁ。明日美と一緒にいられないなんて辛すぎるだろ」

「なにいってるんですか。日中は同じ院内にいたのに」

 幸い職場が同じなので、顔を合わせない日はほとんどない。でも先生はそれでは不満らしい。
「……そういう問題じゃない。ハグしてキスできないのが辛いんだよ」

「なるほど」

「なるほど、じゃねえ。明日は明日美が夜勤だろ? 二日も我慢しろとかどんな罰ゲームだよ」

 思わず笑ってしまった。ついさっきまで割と難しいとされる手術の執刀医として腕を振るっていた外科医には到底見えない。まるで大きな子供だ。

「……しかたないなぁ。夜にでも差し入れ持って戻ってきますよ」

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