先生の愛が激重すぎる件
  私はあたりをきょろきょろと見渡した。

「おお、そうだな。入れ入れ」

 先生は私を招き入れてくれる。

はじめて入る当直室はビジネスホテルよりも少し狭い感じで、ベッドと小さな机があるだけの殺風景な部屋だった。

「お疲れ様です。これ、オムライス。まだ温かいですよ」

 紙袋を手渡すと、先生は大げさに驚いて見せる。

「すげえ! サラダもある! このスープジャーは?」

 いいながらひとつひとつ机の上に並べていく。

「お味噌汁が入ってます」

 残った玉ねぎを使ってお味噌汁も作っていた。先生は洋食でもみそ汁派と言っていたから。

「マジでうれしいわ。食べるのが勿体ないぜ」

 机の上に広げたまま手を付けようとしない先生に、私は発破をかける。

「いやいや、早く食べてください。呼び出されたらどうするんですか?」

「それはそうだな。でもその前に」

 先生はそう言って私の方を向くと両手を広げた。

「なんですか?」

 もちろん、何を求められているのか分かっていた。でもそっけない態度を取ってしまう自分がいる。素直に抱き着いて甘えられたらどんなにかわいいだろう。

「つれないな、明日美は。まあ、そこがかわいいんだけどな――って、なんだよ電話かよ」

 先生は鳴り出した院内用の携帯電話を白衣のポケットから取り出した。

「おっと、ERからだ。はい、荒木です」

 ERからということは、なにか緊急の処置が必要な事態が起こっている可能性が高い。私は息をひそめるようにして先生の電話内容に耳を傾ける。

漏れ聞こえてくる声は、救急科の医師のようだった。いつも早口でまくし立てるようにしゃべるのですぐに分かった。

「……悪い明日美」

 電話を切ると申し訳なさそうに私を見る。

「ちょっと行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」

「作ってくれたオムライスは戻ったら食べるよ」

「フタ、閉めておくから早く行って」

 部屋から出ていく先生の背中を見て、「ハグしておくんだったな……」そう呟いた。

私はサラダとオムライスにふたを閉めて、袋に戻す。それから一時間ほど待っていたけれど先生が戻ってくることはなかった。

病院を出ると、丁度バスが来ていた。私はそれに飛び乗ると、独りマンションへ帰った。

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