先生の愛が激重すぎる件
 その名前を出した途端、先生の顔色が変わった。

「どうしたって?」

「用件はわかりません。すみません。来て欲しいそうです」

「分かった。すぐに行く」

 ――すぐに行くんだ。

私の顔も見ずに彼女の病室へ駆けていく先生の背中を呆然と見つめた。

「元カノらしいですよ」

 その声にハッとして振り返ると研修医の森先生が立っていた。

森先生は今年医学部を卒業したばかりの研修医。子犬系と称されるアイドル並みのルックスでファンも多い。

「元カノ? 椎名ほのかが!?……って、どうしてそんなこと知ってるんですか?」

「救急外来でほのか自身がそう言ったってウワサで持ち切り。それで僕気になってさ、荒木先生に確かめたんだ」

 森先生が言うには、椎名ほのかがまだ駆け出しのころ合コンで知り合った先生と彼女はしばらくの間付き合っていたらしい。

「ほのかの所属してたグループって急に売れて、それから二年くらいで落ち目になっちゃってさ。メンバーの半分は卒業して、現在は三人で活動してるんだよ」

「……詳しいんですね、森先生」

 あまりそういうたぐいのものには興味がないように見えたけど……。

「だってファンだったもん。でも、三十歳だったなんてショック。ずっと年下だと思ってたのにな」

 そう言って口を尖らせた。男性ファンの心理はそういうものなのだろう。同じ女性としてみれば二十代前半に見せる努力の方が凄いことだ。

私なんて足元にも及ばない。

先生は今頃“椎名ほのか”と何をしているんだろう。

あんな可愛くて色気のある人と付き合っていた過去があって、もし、彼女から復縁を申し込まれたら……私が男なら彼女の方を選ぶ。

「僕も人生で一度くらいはアイドルと付き合ってみたいな。荒木先生に頼んでアイドルとの合コンをセッティングしてもらおうっと」

「それは絶対にやめてください!」

 後輩から頼まれたら合コンでも飲み会でも主催しちゃうのが先生のいいところだけど、その面倒見の良さはもう発揮して欲しくなかった。

「は? どうして久保さんに止められなきゃいけないのさ。意味が分からないんだけど」

 思い切り首をかしげる森先生。意味は分からなくていい。分かってもらっても困る。

「とにかく、ダメなものはだめです。では私は仕事に戻ります。先生もちゃんと仕事してくださいね」

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