先生の愛が激重すぎる件
 そうとだけ言うと、私は森先生から逃げるように仕事へと戻った。

そして深夜。私は仮眠前に担当患者の病室のラウンドを始めた。

点滴がきちんと落ちているか、患者の状態に変りはないか、その他異常は起きていないかひとりひとり見て回る。

大部屋にいる患者さんはなにも問題はなく、私はホッと胸を撫でおろす。それからとある個室の前で足を止めた。

出来るならスルーしたい。でもそんなことはしてはいけない。

私の感情なんて、佐藤さんにはまったく関係のないことだ。プロとして患者さんの前に立つということはそういうことなんだ。

小さくノックをするとドアを開けて中に入る。閉められたカーテンを開けて、私は息をのんだ。

ベッドサイドのライトが照らし出していたのは、荒木先生の姿。椅子に座った先生はベッドにいる佐藤さんの手を握ったまま眠りこけている。

私はつかつかと歩み寄り、先生の肩を揺さぶった。

「……ん、あ。明日美……!?」

「なにしてるんですか?」

 自分でも驚くほど冷たい声だったと思う。寝ぼけまなこの先生は慌てふためいた様子でなにやら言い訳を始める。

けれど、言い訳を聞いてあげられるほど広い心を持てなくて、「最低」とだけ言い残して病室を出た。

さらに最低だったのは、私を追いかけてこなかったこと。

「……え、久保さん。なにかあった?」

 ナースステーションへ戻ると、同僚が驚いた顔で私を見る。

「いえ、なにも」

「そう? ならいいんだけど……」

 もしかしたら今の私は般若のような顔をしているのかもしれない。

「お先に休憩入ってきます」

「ああ、うん。ごゆっくり……」

 私は休憩室へ入ると、家鍵を閉めた。ソファーの背もたれを倒してベッドの形にするとシーツを敷いて横になった。

けれど、さっきの光景が脳裏に焼き付いて目を閉じると鮮明に浮かんでくる。

いかがわしいことをしていたわけじゃない。ただ手を握っていただけ。私も患者が望めばすることはある。不安の取り除いたり、痛みを逃すには効果的ではあるけれど、医者が患者の手を握る。これは普通の事なのだろうか。

「もうやだ。本当に最悪……」

 全く眠ることもできずに休憩時間を終えた。

仕事が忙しいと仮眠を取れないことも多々あるとはいえ、眠りたいのに眠れないのとはわけが違う。

「お先に休憩ありがとうございました」

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