先生の愛が激重すぎる件
「どうしてですか? 芸能人なら周りに素敵な男性がたくさんいるんじゃないですか?」
 
 俳優や歌手、モデルやテレビ局関係者。華やかな世界には魅力的な人が多そうだ。

「正臣がいいの。だって私にプロポーズしたのよ、彼」

「……昔の話ですよね」

 佐藤さんは得意げに言うけれど、ずっと昔の話のはずだ。この人はただ、私にマウントを取りたいだけ。

「ええ、そうね。でも返事はいくらでも待つって言ってくれたわ」

「でも今は私が先生の恋人です。先生のマンションに一緒に住んでますし、ついさっきもあなたじゃなくて私のことが好きだって言ってくれました」

 負けたくなかった。だから精いっぱいの虚勢を張った。すると彼女は綺麗な顔を歪めてわなわなと震えだした。

「……え。佐藤さん?」

 佐藤さんは呼吸を荒くして、苦しみだした。床に膝をつくと顔は青ざめ、手で胸のあたりをかきむしっている。

「だ、大丈夫ですか?」

 慌ててナースコールを押すと、急変していることを伝えた。すぐに夜勤のスタッフと荒木先生が駆けつけてくれた。

「和美!」

 荒木先生は佐藤さんをベッドに座らせて両手をやさしく握った。

「大丈夫だ。息できるから、落ち着いて。まず吐いて。そう。次はゆっくり吸って……」

 先生はいつもよりうんとやさしい声で佐藤さんに声をかけた。駆けつけたスタッフはその様子を見ていることしかできない。

ようやく落ち着いた佐藤さんをベッドに寝かせると、先生は私に「さがっていいぞ」といった。

「ですが……」

「まだ仕事があるだろ。患者は他にもいるぞ。みんなも仕事に戻っていいからな」

「わかりました」

 私はこの場に留まりたかった。先生と佐藤さんを二人きりにしたくなかった。けれど、先生が言うように患者は他にもたくさんいるし、検温も終わっていない。それにこれから朝食の配膳をしなければならない。

***

「和美はパニック障害を患っている」

 夕食後の自宅のリビング。ソファーに向かい合い、いつものようにくつろぎながらコーヒーを飲んでいると、まるで思い立ったように先生が言った。

「そうだったんですね……」

 だから彼女は私との会話で急激なストレスがかかって発作を起こしてしまった。もしかしたらあの夜も同じような状況だったのかもしれない。

「ごめんなさい」

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