先生の愛が激重すぎる件
 いないはずの先生が目の前にいる事実を私はまだ呑み込めずにいた。

「どうしてって、仕事って言ったろ」

「そ、それは知ってる」

 てっきり浮気していると思い込んで別れる算段までしてしまっていた。へなへなと腰の力が抜けていくのを感じる。

「……で、でも。遅くなるっていってたじゃない」

「そうなんだけど、明日美の様子がおかしかったから早く帰ろうと思って仕事切り上たんだよ。なのに、途中で副院長につかまっちまって」

――そうだったの!?。

「……それで、どうして明日美はここにいるんだ?」

 先生は掴んでいた腕を放すと私の顔を覗き込んでくる。

「それはね……これを! お弁当を届けに来たの!!」

 私は弁当に入った紙袋を目の前に掲げた。すると先生は人目も憚らずに私を抱き寄せる。

「ちょっと、正臣。ここ病院だよ」

 しかも職員専用の通用口だ。誰かに見られてしまうかもしれない。

「そんなの構うかよ。むしろ見せつけてやりたくくらいうれしいんだぜ」

「喜び過ぎよ」

「別にいいだろ。最近一緒にいてやれなくて愛想尽かされたらどうしようって心配だったんだ」

「そんなこと……」

「あるだろ?」

 私の気持ちを見透かされていたようで胸が痛む。

「でも明日美なら理解してくれるって信じてる」

 先生は私を信頼していた。そう思うといたたまれない気持ちになった。

「ごめんなさい……私、正臣の事少し疑ってた」

 少し、どころじゃなくかなりだけど。

すると先生は「そっか」と言って私を抱きしめていた腕をほどく。怒らせてしまった?不安に駆られながら先生の名前を呼んだ。

「正臣?」

ライトに背を向けてるから逆光で表情がよく分からない。

「……ごめん明日美。このままここにいてくれる?」

「え、なんで――」

 私が言い終わらないうちに先生は雨の中へ駆けだした。置いてきぼりの私は言われたとおりに待つことしかできない。

おそらく五分にも満たない時間だったと思う。私にとってはその数分さえもとてつもなく長く感じて不安で寂しかった。

「……どこ行っちゃったの?」

遠くの方から車のライトが見えて、それが先生のものだと分かると心の底からホッとした。

「もう。車撮りに行くならそう言ってよ! 置いていかれたのかと思っちゃったじゃない」
 

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