先生の愛が激重すぎる件
 ホテルまではかなりくねくねした山道を登らなければならなかった。彼女が終始無言だったのは乗り物酔いしていたからだったのか……。

「わかった。必要な物があれば遠慮なく言ってね」

「はーい……」

 彼女の言う通り、体を休めて回復するまで待つしかなさそうだ。

私はスマホをもってベランダへ出た。

標高の高さもあってか、日が沈む時間帯はかなり気温が下がるようだ。

ブルっと身を震わせると、籐で編まれた椅子に腰を下ろす。

顔をあげれば目の前にが高揚した木立が並んでいる。湖が望める部屋ではなくなってしまったが、自然は十二分に満喫できそうだ。

「やっぱり来てよかった」

 突然お誘いに乗ってくれた久保さんには感謝している。でも、本音を言えば先生と来たかった。

「……仕事バカなんだから……」

 ワーカホリックな高木先生ほどではないにしろ、荒木先生も十分に仕事中毒だ。

外科医はどうして仕事熱心な先生が多いのだろうか。いつも全力で患者さんのことを考えている。

「まあ、そこがいいんだけど……」

 ひとりでそういって、自嘲するように笑った。それから先生に電話をかける。

「もしもし、仕事終わった?」

 普段通りのテンションでそう話しかけた。すると電話の向こうの先生は戸惑ったような声を出す。

『ああ、終わった。……それよか明日美、ほんとごめんな。申し訳なくて、俺、なんて謝ればいいのかずっと考えてて、それで連絡もできなくて。悪かったよ』

 私が猛烈に怒っているとでも思っていたんだろうか。こんなにおどおどとした先生は初めてだ。

「いいって。仕事だもん仕方ないよ」

『でも、約束してたのに、本当に悪かった。もうホテルか?』

「うん、そう。すごく素敵なホテルだよ。正臣は? 今どこ?」

『…………家にいる』

 てっきりまだ病院にいるのかと思っていたけれど、そうではなかったらしい。

「じゃあ、今からくる?」
 
 来るはずがないと思いつつ(来られても困るけど)聞いてみたけれど、

『……悪い。これからまた病院に行かなきゃならなくて……』

 断られるとそれはそれで腹が立ってしまった。

――仕事と私、どちらが大事なの?

 なんていうつもりはない。でも、お灸をすえるくらい罰は当たらないよね。

「冗談だよ。仕事頑張ってね。……あ、起きたみたいだから切るね」

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