先生の愛が激重すぎる件
「そういわれると……理由なんてないよね! じゃあ、遠慮なくいただきます」

 小豆の風味が残るなめらかな羊羹と辛口ですっきりとした味わいの日本酒はとてもよく合った。車窓からみえるのどかな田園と山林の風景をぼんやりと眺めていると、明日から仕事に行くのが少しだけ億劫になる。

 帰りの電車はあっという間に新宿に到着した。ホームに降り立つと勢いよく駆け寄ってくる大男がひとり。 いきなり肩を掴まれて私は思わず声をあげた。

「きゃあ!」

「明日美! 俺だよ」

「え、正臣?」

 先生は少し気まずそうな顔をしている。私が悲鳴を上げたせいで周りの人たちの視線が集中してしまっている。

「驚いたー。迎えに来てくれたの?」

「当たり前だろ。それにお前、誰と……」

 そう言って口籠る。きっと私が誰と一緒にいたのか確かめたかったんだろう。

「え? 野原さん」

 私の後ろから降りてきた野原さんを見つけて先生は驚いたように目をしばたたかせた。

「荒木先生! お疲れ様です」

「お疲れ様……って、なんで野原さんが? もしかして一緒にいたのって、なんだ、そうか」

 先生はどこかホッとしたような表情で私を見つめる。

「そうよ、私が誘ったの。だってひとりで旅行するのは寂しいじゃない?」

 つい嫌味を言いたくなってしまう。すると先生は申し訳なさそうにうなだれる。

「悪かったよ。一緒に行けなくて」

「本当に。まあでも、女子旅楽しかったから結果オーライってところかな? ね、野原さん」

「え!? ……あ、はい。すっごく楽しかったです。来られなくて残念でしたね、先生」

 野原さんがそういうと、先生は「まいったなぁ」といいながら頭を掻いた。

先生の車で野原さんを家まで送っからマンションへ戻ると部屋の中はいつも以上に掃除されていた。

「キレイになってる?」

 普段からきれいにしていたが、それ以上に小綺麗になっている、様な気がする。

「ああ。床にワックス掛けた」

 そう言われて足元に視線を落とすとフローリングの床はピカピカに輝いている。

「へえ、すごい。そんな時間あったんだ?」

 ああ、つい嫌味が出てしまう……。

野原さんとの旅行が楽しかったのは本当だ。でも、先生と行きたかった。これも本心だ。

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