先生の愛が激重すぎる件
 私がナースステーションから出ていくと、先生も慌てて立ち上がり後をついてくる。人気のないスタッフ用の階段で足を止めた。

「どうしたんだよ明日美」

 そう聞く先生の目には怖い顔をした自分の顔が映り込んでいる。

「ひとつ確認したいことがあるんですがいいですか?」
 
 ああ、どうしよう。優しく問いただすなんてできない。

「私に隠してることありますよね?」

「……何の話?」

 しらばっくれるつもりだろうか?

「こないだの旅行、仕事で来られなかったって、あれ、嘘ですよね?」

 思わず語気が強くなり、握った拳が小刻みに震える。

「仕事だったさ」

 まるでため息を吐くように、先生はそう言った。ため息を吐きたいのは私の方なのに……。

「どうしてすぐばれるような嘘つくんですか? 野原さんも小春も先生は病院にいなかったって言ってますよ? どこにいたんですか?」

 もしバイト先にいたなら「仕事」と濁さないだろう。

先生のバイト先は中規模の個人病院で夜中にいきなり呼び出されるようなことはないし、そもそも数日休暇を取ると事前に伝えたと言っていたはずだ。

「……夜中に連絡があったんだ」

 まるで観念したかのように先生は話し始めた。

「“佐藤和美”さんから?」

「……そうだ。腹が痛いって話だったから夜間病院の受診を勧めてみたんだよ。そうしたら動けないくらいの激痛だって言い始めて、救急車を呼ぶように説得したけど記事になるから呼びたくないって言われて……」

「それから?」

 私は話の続きを急かす。

「すぐに彼女のマネージャーに電話して、様子を見に行って欲しいってお願いした」

 マネージャーの連絡先を知っていることに引っかかりはしたが、先生なりにほのかに呼ばれてすぐには行こうとしなかったと知れてほんの少しだけ安心した。

「でも、結局行ったんでしょ?」

「ああ。数分後マネージャーから”ほのか”が電話に出ない。重病かもしれないから一緒に来てくれないかって懇願されて。さすがに朝までには帰れるだろうって踏んで和美のマンションへ向かったんだ。結局急病ではなかったけど、独りには出来ない状態で……」

 その先は想像がついた。入院していた時の彼女はとにかく周囲を振り回す人だったし。

「主治医として放っておけなかったんだよね? それは理解できる……」

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