先生の愛が激重すぎる件
 車通勤だったんだ……昨日は病院の駐車場に置いていったんだろうか。

「乗れよ!」

 立てた親指で助手席を差した。

「いえ、結構です。もう少しでバスがくるんで」

 それに、こんな場所から先生の車に乗り込んだら誰かに見られてしまうかもしれない。遊び人の荒木先生と噂になるのはまっぴらごめんだ。

「いいから乗れって。こんなところに停めて、バスが来たら迷惑になるだろうが!」

「それ、先生が言います?」

 遠くの方からバスが近づいてくるのが見える。すると先生は「ほら、バス来たぞ。早くしろ」と声を張った。

 そう急かされて、私は断ることもできずに助手席へ乗り込む。
 
「いやーよかったよ」

 車を発進させて、先生は言った。

「明日美がバス停にいてくれて。夜勤のスタッフに聞いたらもう帰ったっていうんだもんな」

「探したんですか? 私のこと」

 まさか変なこと言ってないでしょうね?と不安がよぎる。

「ああそうだよ。『久保ちゃんいる?』って聞いたら『帰りました』って言われちまったよ」

「それで、ご用件は?」

「メシ行こうと思ってさ。付き合ってよ、夕飯」

「ごめんなさい。昨日からこの服なので今日は……」

「じゃあ、家よる? 着替えたいんでしょ」

 着替えていないことにかこつけて、食事の誘いを断ろうとした。けれど、荒木先生は断る隙を与えてはくれない。

「そうですけど……」

「じゃあ、行こう。家どの辺? ほら早く言わないと信号変わるぞー」

「……大通り沿いに最近できたタワマンの裏です」

 おかげで日当たりが悪くなってしまった。

「ふーん、あそう。俺そのタワマンに住んでんの」

「ええ!」

 まさか、先生が近所に住んでいたなんて。

病院の近くに住んでいる先生たちは多いのは知っていたけれど、まさか荒木先生もご近所さんだなんて偶然にもほどがある。


 アパートの前で車から降りると、三十分後に迎えに来ると言われた。

「どうしてあんなに強引なの……」

 先生の車が見えなくなってから、私は思わず独り言ちる。

 ゆるっとしていて適当なイメージがあっただけに、ぐいぐいと迫ってくる先生にただただ驚くばかりだ。

 部屋に戻ると軽くシャワーを浴びて、化粧をした。クローゼットを開けてストライプの襟付きシャツにスキニーデニムを取り出す。
 
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