先生の愛が激重すぎる件
ようやく医者として歩き始めた俺は先輩や同僚に誘われるまま、夜な夜な飲み歩いていた。
当時大学病院の医局だった俺は金に余裕があったわけではないけれど、一晩当直のバイトをすれば高級店で飲み食いできるくらいのお金はすぐに手に入った。
医者というネームバリューでいくらでも女の子に出会えたし、向こうから勝手に好きになってくれた。
仕事は辛いことも多かった。そのストレスを発散するかのように酒を飲んで遊んだ。毎日がとても楽しかった。世の中の女性が俺のことを好きになるんじゃないかと思ってしまうくらいにモテていたから。
そんな勘違い最強男子の俺でも落とせない子が現れた。
当時二十三歳だった和美だ。
雑草の中で咲くユリの花みたいに清楚で品があってほかの女の子よりも目を引いた。でもどこか寂しげでつまらなそうにしてる彼女に俺はアプローチすることにした。
『ねえ、君。全然飲んでないね』
『はい。明日仕事なので……顔むくんだら困るし』
聞けば駆け出しのアイドルで、飲み会には同じ事務所の先輩に無理やり連れてこられたのだという。
『じゃあ、抜け出さない? 俺が連れだしたことにして早く帰ればいいよ』
『でも……』
『心配しなくていいよ。責任は俺がとるから』
そう言いながら二人で飲めたらいいなと考えていた。当時の俺にはもちろん邪な気持ちしかない。
けれど、彼女は頑なだった。
『今日は帰らせてください』の一点張りで根負けした俺はタクシーで家まで送ることにした。
『……え。ここに住んでるの?』
彼女の住まいはアイドルが住んでいるとは到底思えない古びた木造アパートで俺は面食らった。
『アイドルのお給料じゃ生活できないんです。アルバイトもしてるんですけど、それでも生活が苦しくて……』
彼女の所属事務所の給料は歩合制で仕事がなければゼロの月もあるという。
『それでもアイドルになりたいの?』
思わず聞いてしまった。すると和美はこくりと頷く。
『はい。小さいころからの夢だったので……でも、もうあきらめないといけないかも。水道も電気も止められてしまったし、家賃も滞納していて』
『そんなに大変なのか。なにも知らなくて、なんかごめんな』
『いいんです。誰も悪くないんで……』
突然泣き出した和美を放っておけず、財布にあった数万円を握らせた。
『受け取れません』
涙をためた目で俺を見る。本当はもっと払ってあげたいが、残念だが手持ちがない。
『いいから。足りないかもしれないけど、使って。必要な時はいつでも俺のこと頼っていいからね』
それきっかけで二人で会うようになった。友達からは地雷女だからやめておけって忠告されたけどいくら告白しても首を縦に振らない和美に俺は執着していたんだと思う。
猛アピールの末付き合うようになった。
アイドルと付き合えて舞い上がっていたし、結婚してもいいと思った。売れない和美を支えるのは俺だって信じて疑わなかった。ワガママもかわいいと思えたし、どんな要求にもすぐに応えた。
けれど、彼女の要求は徐々にエスカレートしていき俺が応えられないと知るとかんしゃくを起こすようになった。
和美には仕事のストレスもあるのだからと理解しようと努力した。けれど、俺も仕事が忙しく彼女と喧嘩になることが増えていった。
結局、和美はアイドルとしてほんの少し売れた後、グラビアアイドルとして大成した。都心のタワーマンションで暮らし、欲しいものは何でも手に入るくらいには稼げるようになった。
そんな彼女にはいろんな男が寄ってきた。地位も名誉も金もある男たちだ。だから別れを告げられた時、俺は用無しになったのだと考えるようにした。
これで二度と会うこともないと思っていたのに……和美が救急搬送されてきて医者と患者として再会するなんて夢にも思わなかった。