先生の愛が激重すぎる件
『……正臣!?』
救急外来のストレッチャーの上で痛みに耐えながら俺の名前を呼んだ。
あの頃と変わらないどころか、思わず見とれてしまいそうなくらいとてもきれいになったと思った。
もちろん彼女の活躍は知っていた。テレビはあまり見ないが、街に出れば彼女が広告塔をしている商品の看板を目にすることもあったし、若い同僚には彼女のファンもいて医局に置かれた写真集を興味本位で覗いたこともあった。
『お久しぶりです、佐藤さん。救急医の診断通り、すぐに手術が必要です。それについて説明させてください』
あえて事務的に、淡々と医者としての責務を果たそうとする俺に和美は不満そうな顔をする。
『どうしてそんなに他人行儀なの?』
『おっしゃりたいことが分かりません……』
元彼面してなれなれしい口を利くほど馬鹿じゃない。ここは職場だし、今は医者と患者だ。
『正臣変わったね……昔はもっと優しかったのに。なんか怖いし、別の先生に手術してもらいたい』
まるで子供が拗ねるように頬を膨らませて顔を背ける。あざとかわいいを売りにしているのだろうが、ここは病院でしかも急を要するような容体だ。
『……申し訳ありません。当直の外科医は僕だけなんです』
ていうのは嘘で、後輩と研修医が待機している。だた、面倒そうな患者だからと救急医が俺を呼び出しただけ。
『じゃあ、前みたいにやさしくしてくれる? ならいいけど』
俺は短く息を吐いた。今、駆け引きしている暇はない。みんなに見られているが、知ったこっちゃない。
『……分かったよ、和美。久しぶりに会って緊張してたんだよ。俺がちゃんと治してやるから安心して任せてくれるか?』
なだめるように、あやすように、出来るだけやさしい言葉を選んだ。すると和美は安心したように腕を伸ばして俺の手を握った。
『うん、任せる。でもすごく怖いの』
『大丈夫。眠っているうちに終わるよ』
『目が醒めるまで正臣が側にいてくれる?』
『……約束する』
そう言ういしかなかった。
術後覚醒した時、俺がそばにいなかったらまた大騒ぎするんだろうなと余裕で想像できたので病棟に戻るまでずっと付き添うことにした。
おかげで明日美の作ってきてくれたオムライスを食べることができたのは翌朝。豪華すぎる朝ごはんは嬉しかったし、癒された。でもその後の和美のワガママに対応するのは心底疲れた。
俺が許容できるギリギリのラインを分かっているのか、絶妙に振り回す。呼んだらすぐに来いとか、看護師を部屋に入れるなとか。できることとできないことがあるんだと説明すれば、手術の傷跡がきれいに治らなかったら訴えると言い出した。
論点をすり替えるのは彼女の得意分野だ。
仕事だからと諦めていたが、俺の医者という立場を利用してプライベートでも呼び出すようになってしまった。
おかげで旅行に行けなくなってしまったのだが。あれは俺も反省している。
これ以上明日美を悲しませたくないし、もういいかげん、和美との関係は立つべきだろう。
通用口から病院の外に出ると日差しの眩しさに目を細めた。時計を確認すると十一時を過ぎたところだ。明日美に連絡しようとポケットを探る。