先生の愛が激重すぎる件


「正臣」

 そう呼ばれて顔をあげた。

 こちらへ歩いてくるのは上質なキャメル色のロングコートを着た女性。サングラスをかけていても俺には誰なのかがすぐに分かった。

「……和美。どうしてここに?」

 って、大方想像はつくが。

「だって、連絡つかなくなったから心配で。きっと仕事じゃないかとは思ったのよ。やっぱりそうだったー」

 彼女コツコツとヒールを鳴らして俺の隣に歩み寄ると腕を絡ませてくる。

「これから帰るんでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、ランチに行きましょ? 西麻布に新しくできたベーカリーのランチプレートが絶品なの。少し前に雑誌の撮影でお邪魔したんだけどね、正臣も好きなはずよ」

「悪いけど、いけない」

 そう言って彼女の腕を引きはがした。

「……は? 嘘でしょ、どうして私の誘いを断るの?」

 信じられないといった様子で和美は綺麗な顔を歪める。

「先約がある。……それに和美は芸能人だろ。俺なんかとランチしてたら週刊誌に撮られるんじゃないのか?」

 しかも、休日のランチ時なんて客がわんさかいる時間帯だろうに。

「週刊誌? そんなの私は構わないわ。正臣と結婚してもいいと思っているし」

「結婚? なにいってるんだよ。そんな気もないくせに」

 甘言葉をちらつかせたら俺が言うことを聞くとでも思っているんだろうか。もうその手には乗らない。

「したくないの? 私と結婚」

「したかったさ」

……昔はね。

俺は和美の手を取ると正面入り口のローターリーまで引っ張っていく。そしてタクシーに彼女と乗り込むとマンションの住所を伝えて自分だけ降りた。

「運転手さん、お願いします」

 ゆっくりと後部座席のスライドドアが閉まり始める。降りようとする和美を俺は手で押し込んだ。

「ちょっと、正臣! なにするのよ」

「ごめん、和美。今、俺には恋人がいるから。二度と連絡してこないで」

 言い終わるか終わらないかでパタン、とドアが閉まる。走り去るタクシーを見送り、俺は車へと急いだ。

明日美に連絡を入れて、マンションのエントランスで彼女をピックアップすると予約していたレストランに時間ぎりぎりで到着することができた。

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