先生の愛が激重すぎる件
 私は名刺を受け取ると、逃げるように部屋を出てきた。

「びっくりした」

 いろいろ驚くことがり過ぎてすっかり酔いが醒めてしまった。

熱いシャワーを浴びてソファーに寝転ぶとさっきもらった名刺をまじまじと見る。ピアノのイラストに名前と連絡先が書かれたシンプルなもの。
私は彼の名前をスマホで検索してみることにした。

「鷹藤琉加(たかとうるか)」

その名前を打ち込むと、思っていた以上に彼に関する情報がヒットする。写真や動画、インタビュー記事やファンの書き込みなどなど。私は一番上のサイトを開いてみる。

「……天才ピアニスト」

 そう書いてあった。 どうやら彼は世界的にも有名なピアニスト兼指揮者らしい。タキシード姿で撮られた写真は間違いなく先ほどまで目の前にいた人物に違いなかった。

生れは日本だが、ウイーン育ち。母親はオーストリア人で音楽家として活躍しているようだ。父親は有名ブランドの日本法人の社長を務めた後、財閥系企業の役員をしていると書いてある。

検索したら家族のことまで知られてしまうなんて少し気の毒だなと思いながら私はいくつかのサイトを梯子した。

「知れば知るほどすごい人なんだけど……お礼してもらうために自分から連絡なんてできないよ」

 偶然顔を合わせるようなことがあれば別だけど。でも彼はあまり日本にはいないようだし、きっともう会うこともないだろう。そう思い、彼の名刺を手帳の間に挟んだ。

それから、数日後。

先生が当直で不在ということもあり、私は仕事帰りに近所のバーに立ち寄った。最近こうして一人で夜を過ごすことが増えた。

節約生活ばかりでは気が滅入るし、せっかく素敵でおいしいお店が多い地域に住んでいるのだからたまには(でもなくなっているが)プチ贅沢をしても罰は当たらないはずだ。

三杯目のお酒を注文しようか迷っていた時、数名のグループ客が入ってくる。騒がしくなるのは嫌だなと思って席を立とうとすると背後からいきなり声を掛けられた。

「こんばんは」

 一瞬ナンパかと思い身構えたが、違ったようだ。「この間はどうも」と言われようやく振り返る。

「……鷹藤さん?」

 今日は髪をまとめているからか印象が違ってみえる。服装もTシャツにカーゴパンツというカジュアルな装いで今日はちゃんと男性だとわかる。

「そうだよ。また会えたね……ええと、」

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