先生の愛が激重すぎる件
ナースステーションに戻ると同僚ナースの西田さんが心配そうに声をかけてくれた。

「久保さん、もしかして体調でも悪い?」

「いえ、全然大丈夫ですよ」

 私は笑顔を作る。すると同僚はホッとした様子でこう続けた。

「じゃあ、今日、仕事終わったら飲みに行かない? 横田先生のお祝い」

 横田先生というのは荒木先生の少し上の先輩医師だ。
 
「横田先生のお祝いって? 何のお祝いなんですか?」

「それがね、私も今朝知ったんだけど先生の奥さん妊娠していたらしくって。切迫早産で長い間入院していたみたいなんだけど、この間無事に生まれて今は里帰りしてるらしいよ」

「へえ、そうだったんですね」

 そんな話、荒木先生からも聞いていなかった。切迫早産で入院してたから無事に生まれるまで公表しなかったんだろうか。
慎重派な横田先生らしい。

「それで、今夜行ける?」

「はい。参加します。あ、でも私、少し遅れてもいいですか?」

 仕事が終わると私はすぐに帰宅した。ヴェガを散歩に連れ出して食事を与え、軽く部屋の掃除をする。

「ごめんね、ヴェガ。あまり遅くならないうちに帰るからね」

 少し寂しそうなヴェガに後ろ髪をひかれつつ、私は横田先生のお祝いが開かれているイタリアンレストランへと急いだ。
店に到着すると既に会は盛り上がっていた。
テーブルをいくつか合わせて縦長にしてあって、上座のいわゆるお誕生日席に横田先生が座っている。私は空いていた端の席に座った。
病棟のスタッフ以外にも声をかけたのだろうか、オペ室の看護師や麻酔科の先生の姿もあったが荒木先生の姿は見当たらない。ホッとしてしまう自分がいた。

「久保さん、お疲れ。なに飲む?」

 この会に誘ってくれた西田さんが私の席まできてメニューを開いて渡してくれる。グラスワインをオーダーすると取り分けて置いてくれた料理に手を伸ばした。

冷めてしまっていたせいか、どれもおいしいと感じない。せっかくのワインも一口飲んでグラスを置いた。お腹は空いているはずなのに食欲がわかないなんてどうかしている。いつもなら楽しめるはずお酒の席が苦痛でしかないなんて。

「みなさーん! そろそろお時間なんですが、この会の主役、横田先生から一言いただきたいと思います!」

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