先生の愛が激重すぎる件
 その声に押されるようにして横田先生が恥ずかしそうに立ち上がる。結構お酒を飲んだんだろう。顔が真っ赤でふらふらと体が揺れている。でも先生の顔はとても幸せそうに見えた。

「えーと。本日はこんな素敵な会を開いてくださってありがとうございました。医者のくせに我が子の事となると素人同然で、産まれる瞬間まで生きた心地がしませんでした。産科の先生にも妻にも叱られてばかりで……」

 そう先生が言うと、どっと笑いが起きる。
先生が叱られているなんて全く想像ができなくて、でもとても微笑ましいと思った。

「妻は切迫早産だったので家にいてもほぼ寝たきりで、出産までのひと月は入院もしていたんですけど、僕が妻に付き添えたのは荒木先生が仕事を引き受けてくださったからです。当直とか、緊急手術の呼び出しとか、何も言わずに代わってくれて……本当に感謝しています」

 大きな拍手に包まれて、横田先生は目に涙をためていた。そんな姿を見て自分の愚かさを悔やんだ。

「そう、だったの……」

 知らなかったとはいえ、荒木先生が同僚のために必死で仕事をしていたというのに、私は彼を責めてしまった。
 
 なんで構ってくれないのと、わがままを言った。
 
『でも俺、これからは仕事もだいぶ減るし明日美との時間――』

 あの時こういったのは、横田先生の代わりに仕事をしなくてよくなったからだ。今までのように私と過ごす時間を作れるよといたかったのだ。

それなのに私は彼の言葉を遮って別れを決定的なものにしてしまった。

教えてくれたらよかったのに。横田先生の事、知っていたら忙しい先生のこと支えられたのに――なんて、タラレバなことを言っても仕方がないだろう。

あの時の私の気持ちが、態度が、本質だ。たとえ今回の件をやり過ごしたとしてもいつか他のなにかに置き換わって先生を傷つける。

最低だ、私。

***

「ねえ、ヴェガ。後悔ってしたことある?」

 私の言葉にヴェガは困ったように「クゥン」とないて私に体を摺り寄せてきた。

「慰めてくれてるの? ありがとう」

 ヴェガの艶やかな毛並みに手を滑らせていると少しだけ気持ちが落ち着いた。こんな時、独りじゃなくて本当に良かったと思う。

「明日は夜勤だから、昼間にお散歩行こうね」

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