先生の愛が激重すぎる件
「もちろん。あなたのような人が住んでくれたら安心です」

 月末までに契約することにして、私は散歩の続きに戻った。それから15分ほど歩いてマンションに戻る。昼食を食べ、シャワーを浴びるとあっという間に出勤時間になった。

「ヴェガ、いい子にしていてね」

 ヴェガの水と食事をセットして部屋を出る。病院についてロッカーで白衣に着替えると控室へ荷物を置きナースステーションに向かった。

「おつかれさま。よろしくね、野原さん」

 同じ夜勤のシフトに入っている野原さんをみつけて声をかける。

「おつかれさまです。久保さんと一緒の夜勤、久しぶりですね」

「確かにそうだね。“落ち着いている”といいね」

 私がそういうと野原さんは驚いたように目を見開く。

「ああっ! それ禁句ですよ! それ言っちゃったら忙しくなるじゃないですか」

「ごめん、つい」

 私たちにはジンクスがある。“落ち着いている”とか“静かだ”と口にすると途端に忙しくなるという。
だから私たちはあまり口にしないようにしているのだが、なぜか今日に限ってうっかり口にしてしまったのだ。

 「も―」と言いながら頬を膨らませる野原さんにもう一度「ごめん」と謝りながらカウンター近くのパソコンにログインする。
担当する患者さんのカルテに目を通しワークシートをプリントする。それに今夜の注意事項なんかを書き添えていく。

ほらやっぱり、今夜の病棟は落ち着いてそう。

「ねえ」

 カウンターの向こう側から呼びかけられて、私は即座に顔をあげた。入院中の患者さんだと思ったからだ。しかし、目の前に立っていたのは患者さんではなかった。

「なんだ、あなたか。名前、なんだったっけ?」

 そう言って私胸につけてある職員証に視線を這わせたのは佐藤和美だった。ハイブランドのワンピースに大きなサングラス。病棟に似つかわしくない異質な存在感を放っている。

いったい何しに来たんだろう。って、想像はつくけれどここは病院。部外者は立ち入り禁止だ。

「申し訳ございません。面会のご家族以外は病棟への立ち入りはご遠慮ください」

 感情を押し殺してそういうと、佐藤和美は「おお怖い」といってサングラスを外した。

「私、椎名です。正臣に会いに来たんだけど呼んでもらえますか?」

「……お約束ですか?」

「いいえ、違いますけど」

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