先生の愛が激重すぎる件
 約束しているのならば取り次いでもいい。だけど仕事中にいきなりやってきて先生を呼び出すなんて非常識だ。

「お引き取りください」

 そう言ってパソコンに視線を戻した。けれど、彼女は引き下がろうとしない。

「なんなのあんた! そうやって会わせないつもりでしょ! 別れたくせに何様のつもりよ」

 驚いて顔をあげると勝ち誇ったような顔で私を見下ろしていた。

「な……んで知って……」

 先生が話したんだろうか。だとしたら……ううん、だとしてもだ。私にはもう関係ない。先生が佐藤和美とよりを戻しても。

「なにぐずぐずしてるの、正臣を呼べって言ってるの!」

  あまりにも大きな声を出したのでナースステーション内が静まり返った。

「――すぐお呼びします」

 そう言ったのは野原さんだった。

「お手数ですが1階のロビーでお待ちいただけますか?」

「もちろんよ! あなた、話が分かるわね。……ああそうだ。これ、皆さんで召し上がってください」

 佐藤和美は途端に上機嫌になると手に持っていた紙袋をカウンターに置きヒールを鳴らしてエレベーターホールへと歩いていった。

「……あ、ありがとう野原さん」

 へなへなと力が抜けていく。そんな私の肩を野原さんはそっと支えてくれた。

「だいじょうぶですか? 久保さん」

「うん、平気。ごめんね、ほんと助かった」

「いえ。それよりなんなんですかね、あの人……先生にきちんと叱ってもらいましょう」

 いいながら荒木先生へ電話をかけ始める。

電話に出た先生に野原さんは佐藤和美をロビーで待たせてあるということ、手続きなしに病棟へやってきたこと、業務妨害になることを端的に伝えて電話を切った。

「さて、仕事しますか。それと何だろうこれ……」

 野原さんは紙袋を覗き込む。

「マカロンですね。超高級なやつ。捨てるはもったいないし、とりあえず休憩室に置いておけば誰かが食べるでしょう」

野原さんの言った通り、私が夜勤の休憩に入るころにはマカロンはほとんどなくなっていた。日勤終わりのスタッフが食べたのだろう。私は食べる気にはならないけれど……。

そもそも食欲がないし、胃がむかむかしてずっと車酔いをしているような感じだ。ストレスなのだろうけれど、このまま続くようなら消化器内科の先生に相談しようかとも考える。

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