先生の愛が激重すぎる件
「お弁当を作ってきたけれど食べたい気持ちにはならないなぁ」

 私は小銭入れをもって自動販売機へ向かった。

消灯後の院内は薄暗く、自販機の光がやけに眩しく光ってみえる。経口補水液を買いしばらくぼんやりとそれを眺めていると不意に肩叩かれた。

あまりの驚きに声も出ずその場にしゃがみ込むと「そんなに驚くなよ」と荒木先生の声が降りてくる。

「もう。やめてよ……心臓が止まるかと思った」

「ほら、立てるか?」

 先生は私の腕を掴んで立たせると手から転がり落ちたペットボトルを渡してくれる。

「……体調悪いのか?」

「え? どうして……」

「だってそれ」

 経口補水液を持っていたらそう思うのも無理はない。健康な時に飲んでもあまりおいしいと感じられるものでもないし……。

「別に……飲みたかったから」

 苦し紛れにそういった。でも先生はそれ以上追及するつもりはなさそうだった。

「……そうか」

「じゃあ、病棟に戻るので失礼します」

 軽く頭を下げて歩きだす。すると先生は私を呼び止める。

「明日美。あー、のさ。悪かったな。さっき……」

「ああ、佐藤和美さんのこと?」

「そう。いきなり来てすげぇビビった」

 ビビった、のはこっちの方だ。病棟で大声出されて“別れた”とか言われて……勘のいい人なら私と先生になにかあったんだって気付くと思う。

「だったら別れたこと言わなきゃよかったでしょ! あの人の性格ならああやって会いに来ることくらい想像つくでしょう?」

「……は? 俺、話してねえぞ。そもそも連絡取れないようにしてるし。だから今日急にきてめちゃくちゃ驚いて……」

 先生はなんでこうも詰めが甘いのだろう。そこが好きだった時期もあったけれど今はもう、ただイライラするだけだ。

「誤魔化さなくていいよ」

「誤魔化すって、そんなことしねえって。本当にあいつに話してなんていないんだ」

「信じてくれよ」そう言って先生は泣きそうな顔で懇願する。一瞬だけ信じてしまいそうになった。この人はこんなうそを吐く人ではないと知っているからだ。でも、信じて裏切られて、結局傷つくのは私だ。

「よりを戻すならご自由にどうぞ。でも、病棟に来るのだけは止めるように言ってよね。じゃあ、失礼します」 

 私は先生に背を向けると足早にその場を立ち去った。

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