先生の愛が激重すぎる件
 病棟に戻ると救急カートを押してナースステーションから出てくる野原さんが見えた。私は慌てて駆け寄る。

「どうしたの?」

「患者さんが急変したんです。当直の先生を呼んだけど、電話がつながらなくて」

 野原さんと病室へ向かうと、もうひとりの夜勤のナースと研修医が処置を始めていた。けれど、状態は改善するどころか悪化しているようだった。
一刻も早く的確な判断を下せる上級医を呼ばなければ患者は助からないかもしれない。

「救急科の先生は?」

 野原さんは首を横に振る。

「それが電話したんですけど、忙しいみたいで。外科当直がいるだろって電話を切られてしまったんです……」

「そう」

 私はポケットに入ったPHSを引っ張り出すとすぐに電話をかけた。

 ――まだ絶対に院内にいるはず。
 
 「もしもし、荒木先生? 助けてください。急変です」
 
  こんな風に頼りたくなかった。でも私のつまらない意地のせいで患者が助からないのだけは嫌だ。
 
 先生はすぐに駆けつけてくれてすぐに患者さんを診てくれた。
 
 「まずは落ち着いて。野原さんはエコー持ってきて。久保さんは採血と輸血用のルート確保してくれる?」
 
 「はい」
 
 「研修医の先生は採血と輸血のオーダー入れて当直医を探してきて。おそらくオペが必要だ」
 
 「は、はい!」
 
  荒木先生が来てくれたことで現場の雰囲気は明らかに変わった。この患者さんはきっと大丈夫、そう思わせてくれる安心感と的確な判断。

「先生。来てくれてありがとございます」

「どういたしまして。医者としては頼ってもらえるんだってわかったから安心した」

 力なく先生が笑う。これじゃまるで私が先生の事、全否定してきたみたいじゃないか……責任を感じる。

「それは……当然です」

 そこへポータブルのエコーを持った野原さんが戻ってくる。先生は患者の腹部にエコーのプローベを当てると「やっぱりか」と言った。

「腹腔内で出血している。血圧が下がったのもこのせいだ」

 私は納得したように頷いた。術後の経過があまりよくないと申し送られていた患者だったからだ。すぐに対応できたのは野原さんが注意深く看ていてくれたおかげだろう。

「じゃあ先生、すぐオペ出しの準備します。野原さん、ご家族に電話」

「20分後に到着するそうです」
 
「ありがとう」

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