先生の愛が激重すぎる件
 それから私たちは緊急手術の準備を始めた。

手術室へ向かう直前、到着したご家族と患者さんは会うことができた。荒木先生は家族へ説明をして同意を取ると研修医を連れてオペ室へ向かった。

当直医はというと、手術が終わるまではナースステーションで待機するように荒木先生からきつく言われたようで……不満そうな顔でずっとスマホをいじっている。

「なんなんですか、あれ。目障りなんですけど」

 こそこそと野原さんが耳打ちする。

「まあまあ。また連絡つかなくなるよりはいいと思おう」

 最近入ってきたこの若い先生は今時というべきかガツガツと仕事をこなすタイプではない。回診の時以外は病棟に立ち入らないし私用だといって休むことも多くて顔と名前が一致していないスタッフもいる程だ。
実は私もそうで、カルテ上では先生の名前を見ることはあったけれど実物をこんなに間近で見たのははじめてかもしれない。
名前は確か、相原先生。

「あの~看護師さん」

「はい? 私ですか?」

 その相原先生にいきなり話しかけられて驚く私の顔をその人はマジマジと見つめてくる。野原さんとの会話、聴かれてしまったのだろうか。

「何か御用ですか?」

「ああ、ええと。顔色が悪いなとおもって。大丈夫ですか? 初期こそ無理は禁物ですよ」

「初期?」

「やっぱり気付いてないんですね……」

「なんでんすか? スピリチュアルな話?」

「まさか、違いますよ。もっと現実的な話です」

 相原先生は野原さんの方をちらりと見た。

「彼女に聞かれてもよければ話しますけど?」

 どんな話だろう。幸いもう一人のスタッフは休憩中でしばらく戻っては来ない。

「いいよね?」

 そう野原さんに聞くと戸惑いつつ頷いてくれる。いつも巻き込んで申し訳ないと思うが、訳の分からなそうな話を独りで聞くのは怖かった。

「じゃあ、端的に。妊娠してますよね?」

 思わず息をのんだ。ずっと見ないふりしていたものを目の前につきつけられたような気分だ。

「こ、根拠は?」

「僕の実家、産婦人科の病院やってるんですよ。それでよく手伝わされてるんですけど。妊娠初期の患者さん大体あなたみたいな感じなんでそうかなって思っただけです。根拠はありません」

「……まさか。違いますよ……妊娠なんて」

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