サイコな機長の偏愛生活

「え?」
「……どうかしました?」

隣りを歩く先輩の足が急に止まった。
数歩先に進んでいる私も足を止め、先輩の方に振り返ると。

「彩葉、スマホの電源落ちっぱなしか?」
「あっ、はい、たぶん」
「今すぐ入れろ」
「あ、はい。……緊急オペの要請ですか?」
「いや、そうじゃなくてって、いいからさっさと入れろっ!」
「そんなに怒らなくても……」

鞄の中の資料が邪魔で、スマホがどこにあるのか分からない。
講習中は通信NGになっているから、電源を落として鞄の中に入れておいた。

「ありましたっ」

鞄の奥底にあったスマホを取り出し、電源を入れる。

「うわっ、何これ……、凄い留守電の数……」

留守電十六件、メール受信二十二件……。
通信用のアプリにも受信メッセージが結構な量未読になっている。

「えっ……何、これ……どういうこと?」
「俺も今知ったとこ。葵からメッセ来てて。電話して確認した方がいいんじゃないか?」
「………そうですね」

送信相手は母親と先輩の奥さんの葵さん、それと羽田空港内のクリニックの奥田院長、それと彼の秘書の酒井さんとお義母様。
そして、留守電とメールの大半を占める……郁さんからだ。

『彩葉、出回ってる情報は事実無根だから、気にするな』
『何かの手違いで、情報が錯綜してる」
『ニュースの内容は、俺とは無関係だから』など……。

どんな時でも冷静沈着な彼が、文面から狼狽えている様子が窺える。
それらが何を意味しているのかがさっぱり分からない私は、検索サイトのトップニュースを開いた、次の瞬間。

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