サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
「へ?」
「………彩葉?……おい、大丈夫か?」
先輩が肩を軽く叩きながら声を掛けて来る。
けれど、その音量が物凄く微量で、やっと聞き取れるくらいしか耳に届いて来ない。
手元の画面には、『美人女性アナウンサー和久井沙雪さん熱愛発覚?!お相手は大手航空会社ASJの御曹司Z氏』とある。
「先輩、……ASJという航空会社って、幾つもあるんですか?」
「あるわけねぇだろ」
「………ですよね」
Z氏=財前というのは明らかだし、『ASJ』は全日本スカイジェット航空の略だから、他に同じ略記の会社は無い。
違うニュースやスポーツ新聞のネット版を確認すると、『婚約』『結婚秒読み』『極秘入籍』など、目を疑うような言葉が並んでいる。
今までもASJがトップニュースに出ることは何度もあった。
だがそれらは、新就航路線だとか、春の旅行キャンペーンだとか、あくまでも会社の広告的なニュースばかりだ。
経済新聞やビジネス誌で彼のインタビュー記事が載ることもあったが、ゴシップだとか女性関連のニュースが取り上げられたことは無い。
すぐさま彼に電話を入れてみるが、繋がらない。
すっかり聞き慣れた女性の声で、『留守番電話に接続します…』と聞こえて来る。
仕方なく、秘書の酒井さんに連絡を入れてみるが、それも繋がらない。
「繋がらないのか?」
「はい、……留守電に切り替わります」
「きっと問い合わせの対応に追われてるだろうから、今夜本人に直接聞いた方がよさそうだな」
「……そうですね」
隣りを歩く先輩が、頭を軽くポンポンと叩く。
動揺している私を励まそうとしてくれているのは分かるが、正直、他人事のようで完全に意識が朦朧と……。