サイコな機長の偏愛生活
7 夢を1つ叶えた場所が、新たな出発地点

街中がクリスマスモードに色めき立った十二月上旬。
首元を何かで覆わないと背筋が凍ってしまいそうなほど、刺々しい空気が肌を刺す。

「十七時でこの寒さですよ。オペ帰りの朝方は絶対凍死すると思う」
「彩葉、マフラーしてねぇじゃん。……ほれ、俺の貸してやる」
「えっ、いいですよっ!」
「医者が風邪引いたら洒落なんねぇだろ。黙って着けとけ」
「……すみません」

冬期講習を終え、葛城先輩と駅へと向かう道中。
思っていた以上に冷え込んでいて、ロングコートを着ていても芯から冷える寒さ。

「今週は大寒波らしいぞ」
「最近忙しくて、天気予報ですらゆっくり観れてませんよ」
「だよな」

年末年始は忘年会や新年会で飲酒率が増え、救急搬送率も急激に増す。
更にはヒートショックで心臓や血管の疾患が恐ろしいほどに増す。

胸部外科医の私達は、それに備えて毎年事前講習を必ず受けることになっていて、今その講習の帰りだ。

先輩が貸してくれたマフラーは、先輩が付けてる香水の匂いが仄かに香る。
少し甘めなシトラスの香りだ。

「そう言えば、もうすぐ(ぜん)くんのお誕生日ですね。今何にハマってるんですか?」
「そうだなぁ……、最近は飛行機とかヘリコプターとか空飛んでるやつにハマってんな」
「そうなんですねぇ~、じゃあ、今年はそういう系の玩具にしときます」
「フッ、いつも気遣わせて悪いな」
「いえいえ、賄賂ですから」
「フフッ」

先輩の一人目のお子さん、禅くんは今年で四歳。
十二月十九日がお誕生日ということもあって、毎年クリスマスプレゼントも兼ねて贈り物をしている。

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