サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



「本部長っ!」
「何だ、ノックもせずに」
「そんなことはどうでもいいですからっ」

九時前に出社して、ものの数分。
いつもなら秘書の酒井が珈琲を手にして入って来るのが毎日のルーティンなのに。
今朝は血相を変えて駆け込んで来た。

「こ、これをっ……」

いつでも鉄仮面の如く笑顔を張り付けている男が、顔面蒼白という言葉がぴったりなくらい蒼ざめていて、手にしているタブレットが心なしか小刻みに揺れているように見えた。

スケジュール管理もタブレットでしている酒井だから、何かトラブルでもあって予定変更依頼でも来たのかと、安易に捉えていた、次の瞬間。

「っ………、何だ、これは……」
「昼の情報番組のトップニュースで出るようです」
「事前に知らせが無かったのか?」
「これが、……その事前通告のようですよ」
「………」
「それを皮切りに、恐らく多くの媒体で……」
「出所は勿論のこと、誰が関与してるのか、どういう狙いがあるのか、大至急調べてくれ」
「了解です」
「俺の方で法務部とメディア対応と、……それ以外の対応も」
「では、私の方で社長と奥様にもご一報入れておきます」
「……頼む」

『美人女性アナウンサー和久井沙雪さん熱愛発覚?!お相手は大手航空会社ASJの御曹司Z氏』という記事が取り上げられるという、一方的な通告。

十日ほど前に某テレビ局で対談インタビューを受け、その時に『和久井沙雪』というアナウンサーと初めて会った。

対談自体は、ASJのライバル会社でもある『日本サクラ航空』の副社長 御園(みぞの)達則(たつのり)(三十七歳)もその場にいて、およそ一時間ほどの対談インタビューは特に変わった様子は無かった。

ライバル会社ではあるが、日本を代表する二大航空会社として、昔から友好的な関係を築いている。
個人的にも御園副社長とは親しい方だ。

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